――昨日のアレを無かったことにしたい。
一人繁華街の成れの果てを歩きながら、朝から断続的に込み上がる何度目かの思い出し何とやらに頭を抱える。本当に情けない姿を見せたものだと思う。思いもかけない事態で混乱していたとは言え、あれはあまりにも酷い醜態だった。出来ることなら、バスターの頭をかち割ってあの記憶だけ抜き取ってやりたいくらいだ。
(後、あたしの中の記憶も抜きたいわ)
羞恥で人が死ななくて本当に良かった。若しそれが死因になり得るならあたしはとっくに死んでいる。
(・・・この身体で死ねるのかは知らないけど、ね)
この身体。半分死人とと化した身体。姿は似ているがどうやら完全にゾンビとなったわけではなく、所謂半死人とでも言うべき身体になっているらしい。意識はしっかりしたままだから脳は無事なのだろう。多少腐臭はするものの、髪や目、鼻は溶けずに残っている。
・・・但し、爪は腐り落ちてしまった。
しかし、案外ゾンビは仲間を嗅ぎ分けるのに長けているらしく、この姿をしていようが問答無用で襲い掛かってくるのだった。脳味噌と肉が残っているのがいけないのだろうか。
そんなことを考えながら、あたしは一軒の建物に足を向ける。比較的綺麗な(とは言えかなり汚い。単に倒壊を免れているだけの)ビルだ。入口に掲げられている看板の電球は虚しく割れ、かつてのネオンの面影も無い。
カラオケボックス。無論歌を歌いに来たわけではない。防音性の高い部屋ならば、多少の物音に気を遣わず寝泊まり出来ると思ったのだ。窓が無くドアのみが出入口な所が難点だが。
キ、と手近なドアを開けたあたしは――そっとそれを閉めた。
ソファーに座り込みテレビ画面を、恐らくこの建物が襲われた時から点いているのであろう、宣伝を延々と流すテレビを見つめているゾンビが居たからだ。ゾンビもテレビ見るのね。思わずあたしは口からそう漏らしていた。
電気が通う建物は貴重だが、無用な争いは避けるべきだ。後何匹隠れているか分かったものではないのだし。
そうして実入りの無いままバスターとの合流地点へ向かうあたしの耳に、ボウボウと低い音が飛び込んできた。それと重なるように聞き慣れた声もする。
「向こうへ行け、これはやれないんだ!」
バスターだ。酷く焦った声。引っ切り無しに鳴る低音の主が何か分からず、あたしは建物の陰からそっと様子を窺った。
・・・何のことは無い。あいつは野犬の群れを追い払おうとしていただけだ。さっきのボウボウ言う音は野犬の吠え声だったわけである。馬鹿なあいつは犬でさえ殺せない。仕方無くあたしは陰から飛び出し、彼の元までひた走った。そのままの勢いをつけ、野犬の中へ飛び込む形で踏み切る。跳躍した身体は地に着地した瞬間にずくんと疼いた。振動が腐肉を揺らす感覚が気持ち悪い。
けれどお陰で、踏み潰した犬の頭の感触をまざまざと感じなくて済んだ。一頭がやられた所為で群れは散り散りに逃げ去っていく。
ぎょっと目を剥いたバスターが、あたしと犬の両方を心配する声を吐いた。本当に馬鹿な奴だ。あたしは無事だし、犬はもう死んでいる。
「ま、そこがあんたのあんたらしさよね」
あたしの呟きは彼の目を更に丸くさせた。今度は驚きではなく疑問で。
「良いのよ、気にすんなって。それより、こいつも一応食糧だかんね」
ずるりと死骸を持ち上げたあたしを見たあいつの顔は、泣き笑いのようになっていて。それを見てあたしは思わず大声を上げて笑ったのだった。
体力72→69/食糧65→66
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
今日のS:【探索】カラオケボックスを捜索。ある部屋のドアをゆっくりと開けると・・・ソファーにじっと座りTV画面を見ているゾンビ。君は再び静かにドアを閉じた。食糧:-3
今日のB:【探索】飢えた野犬の群れを撃退。どうやらゾンビ化していないようだ。こんなものでも食糧だ・・・。3のダメージ! 食糧:+4
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