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夢を見ましょう

インクに浸したペン先で、そっと、静かに。

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ゾンサバ #11

「な、い、わ、・・・ッマジ最悪!」
 走る度ずくずくと弛む足の腐肉に不快さを感じながら、弾む息の合間に悪口を吐き捨てる。バスターがあたしを振り返るが拒むよう首を振った。こいつはあたしを担いで走ると言ったけれど、馬鹿を言わないでほしい。あたしが触れたらあんたの服は腐肉でドロドロになるのだ。洗濯する水と場所がどこにある。
 床に空いた穴を大きく跳躍。バランスを崩しかけたあたしを、バスターの左手が掴み引き上げていく。サッと肩からずり落ちかけたザックを戻し、次の角目掛けて走る、走る。静かなショッピングモールだったから何も居ないと踏んだのに、当てが外れてしまった。モールにゾンビというのは一種の定石なのだろうか。他の場所でも遭遇した話をちらほらと聞くが。

 漸くモールの端が見えてきた。大型モールの端から端までの疾走など、もう二度とやりたくない。
「てか、ウィンドウショッピングくらいさせなよっつーの・・・!」
「同感だ・・・」
 ぼやきに呟きの返答。思わず笑ってしまって息が苦しくなる。お互い次はどうするかなど分かっているから、特に声を掛け合うことも無く、そのまま勢い任せに閉じられた硝子ドアへと突っ込んでいった。
 一足先にバスターが、続いてあたしが飛び込んだお陰で、硝子の被害はさして被らずに済んだ。彼の切り傷は心配だが・・・あたしが硝子に直撃した場合、身体が保つのかという心配があったので今回ばかりは仕方無い。間髪入れずにまた走り出し、広い駐車場を飛び出した頃にはもう追っ手の姿は完全に見えなくなっていた。
「あーっ・・・体力使ったわ」
「ああも数が多いと流石に・・・うん?」
 身体を折り、ぜえぜえ息を整えるあたしの隣で、同じく肩で息をしていたバスターの言葉が途切れた。見れば何かを探すように背を伸ばしている。
 直ぐ、何を探しているかは分かった。――声がする。
「あっちね」
「うむ」

 近づく程にそれは人の声に聞こえてくる。騒ぎ立てる声と、もう一つは慌てたような声。騒ぐ声が大き過ぎて良く聞き取れない。

 ――くすりをよこせえ! たすけてくれえ、くすり、くすり、あんなやつらになるのはいやだぁあ!
 ――そ、そそそそそんなものないですよ!? た、たすけられません・・・!

 見つけた。フェンス際に追い詰められた少女らしき人影と、今にも掴み掛かろうとしている男。男の方はどうやらあたしと似たような状況らしい。尤も、あの男はもう直ぐ自我も何も無くしてしまうのだろう。
 あたし達の手元には以前見つけた薬がある。もう片足をゾンビに突っ込んだあたしには無用の長物だが、バスターには必要な代物だ。だから一応、彼へ目配せをしてみる。それに気づいたバスターは、優しく微笑して頷いた。
「そうよね、あんたはそう言うと思ったわ。――ちょっとお嬢、これ受け取んな!」
 あたしが投げ渡した薬を危うく取り損ねそうになりながらも、最終的に彼女はその両手にしっかと握り締めた。
「こ、これ、はいっ! どうぞ!」
 唐突で訳が分からないなりに、あたし達の意図する所は伝わったようだ。慌てて迫る男へ薬を突き出すように渡す。ぽかんとした顔をした後、男は恐る恐るそれを受け取り、そして崩れかけの顔を歪ませた。
「ああ、りが、とう」
 多分それは、笑みではなくて泣き顔だったのだと思う。

 ――大変な目に遭ったねえ、とあたしが言った時、少女は苦笑を浮かべて首を振った。人助けが出来たのは嬉しい、ということだろうか。まだティーンであろう容姿で一人旅。心細いし危険だろうとバスターも心配そうに問う。けれど彼女――フェイリヤと名乗った少女は大丈夫だと笑った。
「ま、アレよね。また行き会うことがあったら宜しく。たまには助け合いも良いもんでしょ」
「はい! あ、あのっ・・・」
 今の話で思い出した、とでも言うようにフェイリヤが差し出したのは幾らかの缶詰だった。聞けば、先程の治療薬の礼だと言う。幾ら何でも子供から貰えないと突っ返したが、生存者としての立場は同じだと言われて仕方無く受け取る羽目になってしまった。

「良い子だったね、あの子」
「ああ」
「・・・フェイリヤと言い、米子と言い、子供ってやっぱ良いわ」
 和む、とあたしが漏らすとバスターが笑った。子供好きのこいつにはさぞかし潤いになったろう。
「っ・・・うっ」
 そんな会話の最中、急にバスターがガクッとつんのめった。
「ちょっと・・・大丈夫?」
「ん・・・靴が」
 ひょいと覗き込めば、成る程ブーツの底が剥がれ掛けてベコベコなっていた。酷使に耐え兼ねたのだろう。寧ろ良く保った方だ。折しも立ち止まった場所から三軒先はスポーツショップ。こいつの履いていたような軍靴は無いだろうが、似たようなものなら見つかるだろう。
「新しいの探してきたげるよ」
「頼む」
 店に爪先を向けたあたしの背に、「これから何足靴を潰すだろう」という呟きが刺さる。
 何足潰すだろうか。何日この生活は続くだろうか。あたし達が生きていることを「当たり前」と言える日々に戻れるのは――いつになるのだろうか。


体力69→61/食糧66→67(フェイリヤとの交渉で+5/全体的に敬称略)
アイテム:安全靴、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
◆治療薬:ゾンビ化しつつある者を元に戻す/使い捨て→食糧5と交換(フェイリヤ)

今日のS:【戦闘】建物の中でゾンビの集団と遭遇! 出口まで走れ! 8のダメージ! フォロワーの助けを得られるなら5のダメージ。 食糧:-2

今日のB:【探索】アウトドア用品店を捜索。平和だった頃が早くも遠い昔の夢のように思える・・・安全靴(【探索】で減少する食糧が本来より1点少なくなる。最低1)を発見! 食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938

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早蕨紫苑
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こちらは一次創作サイト Dreaming moomoo のブログであります。サイトへは上プラグインのリンクよりおいで下さいませ。
尚、当ブログ内に掲載されたSS、イラストの著作権は早蕨紫苑に帰属します。

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