酷い臭気が漂う場所だ。この辺りは特に建物の倒壊が目立つ。元々スラムのような場所なのだろうが、今回のゾンビ騒ぎでとどめを刺されたのだろう。この臭気が死体によるものなのか、それともゾンビの纏う体臭なのか、判別することさえ出来ない。
一足先に瓦礫の山を越えたバスターが立ち止まる。あたしを振り返るので首を傾げると、彼は視線で呼び、顎で足元を指した。駆け登り見下ろせば人間の死体が二つ。傍らには食糧入りの袋。男の胸にはナイフ、女の額には銃痕。差し詰め女が男を刺したが返り討ちにされ、その後男も絶命したのだろう。
二人を見下ろすバスターの顔は悲痛だった。体格の割に柔和な眉も顰められ、唇も震えている。
「・・・あのさ、あたしはあんたとこんな風にはならないからね」
恐らく、あたしの放った言葉はバスターの思案と一致していたと思う。こいつがはっとした顔であたしを見たからだ。
「あたしがあんたと一緒に居るのは、戦えないあんたを護る為。あたしはあんたとは戦わないから」
――あたしがこんな甘いことを平然と言ってのけられるのは、バスターが「本当は弱い人間」だからだ。こいつはこの世界の誰よりも甘く、誰よりも馬鹿で、きっと誰よりも優しい。何せこいつと初めて会った時、この馬鹿はゾンビを殺せずに喰らわれようとしていたのだから。
馬鹿な男だと思った。同時にあたしも馬鹿な女だった。あたしは一人が好きな癖に誰かを護りたがる。バスターはそんなあたしにとって格好の「お荷物」になった。こいつを護り、生き抜く。それがあたしの至上命令になり、あたしは強くなれた気でいた。
「だからね、心配要らな、」
――あたしには分からなかった。
真下から跳ね上がってきた瓦礫の意味だとか、
急にふくらはぎに走った痛みの理由だとか、
バスターが何故あたしをそんなに真ん丸い目で見ているのか、とか。
「シェーラ!!」
ああ、分かった。がくりと膝をつきながら視界に映る異物を認識する。地についた手が最初に掴んだ瓦礫を振り上げ、その異物に叩き下ろした。
噛まれた。しかも――かなり不味い。普通のゾンビに噛まれてもこんなことにはならない。身体が焼けるように熱くなった後で・・・次第に熱を失う感覚になど。
傍へ跪いたバスターから離れる。顔を覆った手がぬるりと滑る。
「シェーラ、」
「見るな! 絶対、気持ちの良いもんじゃなくなってる、あたし」
幸いにして声帯や髪は無事そうである。体表がぐずぐずになっただけのようだ。それでも十分問題だけれど。
「・・・最悪ね」
一瞬前まで何を豪語していたのだろう。誰が誰を護る? こんなことでは――あたしは誰も護れない。
「バスター・・・良く聞きな。あたし、今半分ゾンビになってる。何でか分かんないけど、自我はこの通りあるらしい。でも、それもこの先分かんない。
――だからさ、」
「おれは君と一緒に居る」
あたしを遮った言葉に、あたしは心底揺さぶられた。・・・きっとあたしはこいつを失うのが怖かったのだ。それなのにこいつときたら、馬鹿にも程があるというものだ。
「馬っ鹿じゃないの・・・あたし本当に気持ち悪いことになってるって」
「君は、君だ。シェーラ、変わりが無い。おれは戦えないけれど、役には立たないけれど、君の傍に置いてくれ。振るえない拳の代わりに君を護らせてくれ。君の心を護らせてくれないか」
そんな言葉と一緒にあたしを包んだ温度が温かくて、腕も伸ばせないままあたしは泣いた。
(こいつが居ないとダメだったのは、あたしの方ね)
体力74→(前回寝袋効果を付属し忘れ、+1)→75/食糧72→64
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
※歩ける寝袋:【休息】時HP+1点
※治療薬:ゾンビ化しつつある者を元に戻す/使い捨て
今日のS:【変異】突然変異したゾンビに噛まれ、君は自我持つハーフゾンビ人となった! 以後永久にゾンビ化しなくなるが【同行者】をすべて失い、新たに得ることもできない。食糧:-12
今日のバスター:【探索】食糧のそばに男女の死体を発見。食べ物を巡ってお互い争い合ったようだ・・・自分もこうなるのだろうか。食糧:+4
http://shindanmaker.com/235938
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