無人の消防署というのは不思議な感じがするものだ。いつも人の溢れた場所というわけでもないのに、いざ本当に無人になってしまうと静か過ぎる。何処で火事が起ころうとももう光らないであろう赤色灯を見上げていたあたしに、バスターが声を掛けた。
「シェーラ、こんなものがあったぞ」
片手に振っているのは信号弾のようだ。助けを呼ぶ時に打ち上げるアレである。
「・・・置いてって良いんじゃない? あたし達以外に、ソレが必要な奴は沢山居るでしょ」
この生活の中で他人の命を気に掛けている場合ではない。が、あたしにしてもこいつにしても、少なくとも子供の命を踏み台にしてまで生きたいとは思わなかった。この支えの無い生活の中で、信号弾は若い心には心強い助けになるだろう。
「分かった・・・戻しておく」
「分かりやすい所にね」
あたしがそう言うとバスターが笑った。
その、帰り道。
「ほんっと最近ツイてないよねぇ、あたし達・・・!」
狭い路地を選んだのは人目に触れず、安全に進めると踏んだから。ここの所のあたしの勘は全部空振りばかりで厭になる。しかも一体二体ではなく団体で来るのだから余計始末に負えない。逃げ続けの毎日に疲弊した足がふらつき、それに気づいたバスターが手を差し出したが、
「馬鹿、ンなことしたらあんた、荷物落とすでしょ!」
パシンと弾き、体勢を立て直して走る。大事な食糧を落とされるのも困る。それに、この手を引かれることに抵抗もあった。
(あんたの手が汚れるもんね)
ふと、微かにバスターのスピードが落ちた。
「シェーラ・・・・・・まずいぞ」
走っている所為だけでない、切羽詰まった声音に不安感。一番嫌な予想を抱いて大柄な身体の向こう側、進行方向の先を覗く。
――行き止まりだ。
「あーもう・・・!」
最悪! 毒づくあたしを宥める声は無い。そんな余裕も無いのだ。行き止まりとは言えそこはフェンスで阻まれているに過ぎない。だがここで足止めを喰っている間にゾンビ共は追いついてくるだろう。どちらかは確実に奴らに襲われる。
「バスター、先に昇んな!」
選択の余地など無かった。反論しようとしたそいつの尻を蹴っ飛ばす。
「あたしの力じゃあんたを引き上げらんないでしょ! 先にあんたが昇って、それからあたしを引き上げな!」
――それは半分本音で半分嘘。確かにあたしではこいつを引き上げられないけれど、理由はそれだけではない。今でもあたしは、精一杯こいつを護ろうと思っているのだ。
迫るゾンビの集団。バスターがフェンスに手を掛けたのを知ってか咆哮を上げる。
「くっさい息混じらせないでよ、空気が腐るッ!」
身体をバネのようにして先頭のゾンビへ蹴りをお見舞いしてやった。狭い道はあたし達にも不利だったが、応戦するのにはうってつけだ。先頭を牽制してやるだけで十分足止めになる。
しかしゾンビ共も黙ってやられてはくれない。蹴った足に纏わりつき、そこへ大口を開けて噛みついてくる。半分腐った肉に痛みは無いが、まだ無事な肉が痛い。勿論傷から血が溢れてもくる。
(あー、まだ生きてるって感じ)
死にそうな時に面白いことを思うものだ。そんな笑いが込み上げかけた時、天からあたしを呼ぶ声が。
「シェーラ、掴まれ!!」
仰げばバスターの手が伸びていた。足を齧る連中を毟り取り、フェンスを蹴って飛んだ。一本しか無いあたしの腕は、一本限りのバスターの手をしっかと握り締めた。
その時引き上げられる感覚は、まるで飛んでいるかのようで。こんな風に思えるのなら手を取られるのも悪くはないと、思ったのだ。
体力61→52/食糧67→63(安全靴で-5→-4)
アイテム:安全靴、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
◆超過→救難信号弾を捨てる
今日のS:【戦闘】狭い通路でソゾンビの集団と遭遇! 単独突破は難しい! 9のダメージ! フォロワーの助けを得られるなら6のダメージ。 食糧:-2
今日のB:【探索】消防署跡で、救難信号弾(使い捨て。これを使用したとツイートし、24時間以内にフォロワーーの助けを得られれば最新の診断結果を無効化できる)を発見! 食糧:-3
http://shindanmaker.com/235938
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