「シェーラ、ここで待っていろ」
――つぎはぎゾンビから逃げ出して間も無く、担いでいたあたしを下ろしたバスターはそう託けて行ってしまった。これは多分、壊れた地下鉄の車両なのだと思う。地上に出た所で襲われ、横転したのだろう。地下だからと言って安全ではないが、若しもずっと地下に居られたらこんな騒動に巻き込まれずに済んだのだろうか。
「馬っ鹿馬鹿しー・・・」
この世界、既に何処も安全ではないはずだ。女子供も戦う術の無い者も皆巻き込まれている。唯一空だけが安全な場所だろう。車両が横転している所為で、今あたしが横になっているのは長椅子の背凭れだ。硝子片はバスターが払っていってくれたので、思いの外快適である。
そして、寝転がった真上の窓から空が見えた。切り取られた四角い、連続した空を時々鳥が横切っていく。あいつらは呑気で良いなぁと思うけれど、こんな世の中じゃ餌を取るのも一苦労だろうから結局人も鳥も変わらず世知辛い。
首の出血は大分収まってきたらしい。痛みも抜けてきた。こんなことならバスターについて行けば良かったと、独りなのを良いことにわざとらしく唇を尖らせてみる。ここの所あたしはあいつに護られてばかりではないか。
(不満っちゃ不満よねえ)
そもそも大の男一人を護ろうというのが無理な話かも知れないが。それもこんなトンチキな世界で。それでも、そうして護り抜く度に自分が強くなれる気がしていて好きだった。要は自己満足とも言える。相手がバスターで無くとも、あたしはそうしていただろう。
けれど、少しは。少しは、あいつだからという部分が、今は。
「シェーラ」「わっはい!!」
ひょっこり視界に飛び込んできたバスターに名前を呼ばれて、素っ頓狂な声が出てしまった。急に呼ぶなと怒鳴ると相変わらず情けない顔で笑う。
「あまり大声で呼んだら不味いと思ってな」
「そりゃ・・・そうだけど」
だからって、と言い掛けて止めた。今回はあたしが悪い。非を認められない程子供じみてはいないつもりだから、素直にごめんよと謝った。
「でも吃驚した」
まあ、噛みつくのは忘れないけれど。不貞た子供を宥めるようなあいつの顔が余計癇に障ったものだから、隣に腰を下ろしたあいつを蹴りつけてやった。
「痛い・・・」
「知ってる。・・・で? 何か見つけた?」
「鍵を見つけた。シェルターの」
そこで言葉を切った彼の顔を見上げる。
「・・・置いてきた」
「・・・上出来」
拠点は要らないと言ったあたしの言葉を覚えていたのだろう。あたしがにっと笑う顔に釣られてか、バスターも珍しく悪戯っ子みたいな笑顔を見せた。ザックを担ぎ直して立ち上がる。バスターは寝袋と食糧袋。多少の食糧を、今は二人で分けて持っている。以前マンホール事件で分断された際、片方だけに食糧を担わせると危険だと分かったからだ。
「さーて、行こっかぁ」
桃源郷でも探しにさあ。あたしが言うとバスターがぷっと噴き出した。そんな場所があるとは思えないが、少しくらい希望を添えても良いじゃないか。殊更良い物件が見つからなければ、今日の桃源郷はこの電車になりそうだけれど。
体力27→32(寝袋効果)/食糧58→54
アイテム:安全靴、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
◆超過→シェルターの鍵を捨てる
今日のS:【休息】横転し廃棄された無人の電車が今日の寝床だ。傾いた座席で眠る・・・意外と悪くない寝心地だった。HP:+4 食糧:-2
今日のB:【拠点】金持ちらしき死体の上着から、無人のシェルターの鍵(アイテム扱い。以降【休息】が出るたび、その内容を「HP:+1 食糧:-2」に変更してもよい)を発見! 食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938
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