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インクに浸したペン先で、そっと、静かに。

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ゾンビサバイバル #21

 唐突だが、話をしよう。あたしの家族の話だ。
 両親は離婚していて、あたしは母親と、弟のロビンは父親と暮らしていた。そして母親が死んで身一つになった時から人生経験と称して流浪するようになり、早二年。それなのに、碌でも無い人生を歩んでいるあたしだけが生き残っている現状なんて、笑ってしまう。父親の安否は不明だけれど、ロビンがあんなことになっている以上無事では無いのだろう。案外呆気なく天涯孤独になってしまったものだ。

 然るに、バスターにも同じく家族が居るはずだ。故人であれ存命であれ両親は確実に居る。けれどもあいつが家族の話をしたことは無かった。単に聞かれないからしなかっただけなのかも知れないが、ロビンの一件の時でさえ、あいつは身の上話をあたしにしていない。だから避けているのだと感じていた。
 あたしの知るバスターの全ては、あいつが馬鹿で、元軍人の癖に戦うことも出来ないお人よしというだけだ。

 そんな数少ない情報に新たな潤いが齎されたのはひょんなきっかけからだった。偶然にも荒らされずに残った高架下の壁が、生存者の災害掲示板代わりにされているのを見つけたのだ。落書きに紛れてはいたが間違い無く家族の安否を尋ね、連絡を乞い、再会を願うものである。

 ジェニーへ フランチェスカの家で待ってる、早く会いたい ママより
 シド 午前7時 鉄塔下にて毎日待つ ジョン
 ・・・エトセトラ、エトセトラ。

 数え切れない書き込みを何気無く追っている最中、ふとバスターを見たら一点を凝視したまま動かなくなっていた。
「何よ?」
 傍らから見上げる。随分高い位置に書かれた書き込みだ。こいつの目線と同じ位置、つまり同身長。相当でかい。

 バスター、連絡を請う
 キセキレイが死んだので援護求む ブレイズ

 あたしの怪訝そうな表情を見て取ったのだろう。こいつはカエルを呑んだような顔をして書き込みを指でなぞった。
「これは兄のものだ」
「えっ。あんた兄さん居たの?」
「同じ軍人だった」
 表情は少し苦くなった。兄との折り合いが良くないのかも。きっとこいつと同じような体格をした、こいつよりもずっと軍人らしい兄貴なのだろう。
「キセキレイが死んだって?」
 そこだけ意味が解らない。鳥が死んでも援護は要るまい。
「・・・暗号だ。足を、怪我したのだと」
 致命的だと思った。このご時世、足が悪くて生きてられる程甘くは無い。弾が五発入ったロシアンルーレットみたいなものだ。ならば援護に行くのかと問う。バスターはまだ渋い顔だったけれど根が優しいのだ、放ってはおけないらしく。結局あたしにもついて来てくれと頼んできた。勿論ついて行くに決まっている。
(ここでサヨナラかも知れないんだから)

 書き込みの下には良く分からない図形が添えられていたが、彼曰くそれは地図らしい。兄弟にだけ通ずるものなのか、軍のものなのかは知らないけれど。その地図に依れば彼の兄はカールトン通りのとある家に身を潜めているらしい。
 訪れてみた家はこじんまりとしていた。しかし窓には鎧戸、玄関階段にはオイルが撒かれ、小さいながら要塞の体を成している。
「わーお。あんたの兄貴ってロバート・ネビル博士?」
「はは、そうだったら治療薬を分けてもらえそうだな」
 密に生え揃った植え込みの、実は通れるようになっている部分を抜け、家の裏手で地下室へのドアを探した。ここから来訪を知らせろという指示らしい。けれど呼び鈴らしき紐を引いても反応は無い。
 あたし達が顔を見合わせた、その途端。扉の向こうで低い声が問うた。
「ヒバリ舞う空、王は何処ぞ?」
 ぽかんと大口を開けたあたしを差し置き、バスターが答える。
「虹の根元に」
 カチリと音がして、それからゴトゴトと重い物の動く音。次いで静かに扉が開いた。

 家主のネビル博士・・・もとい、ブレイズという男は想像に違わぬ人物だった。バスターより彫りが深く厳格な顔立ちで、性格を良く表している。バスターを柔とするなら彼は剛であり、なるほど兄弟の不仲も頷ける。要は馬が合わないのだ。
 ブレイズの出してくれた薄味のコーヒー(それでもコーヒーが飲めるなんて贅沢だ)をちびちび飲みながら、あたしは彼とバスターの会話へ耳を澄ませる。偉大なる軍人はハーフゾンビのあたしを信用出来ないらしく、話し合いに参加する権限を与えてくれなかったのだ。代わりにコーヒーはくれたけれど。

「あんなのを連れているなど正気か?」
「シェーラはまともだ。意思もある、問題は無い」
「だが奴らと同類に変わりない。ここで別れろ、食糧を分けてやるからこの先は一人で行ってもらえ」
「兄さん」
「バスター、聞き分けろ」

 コツコツと苛立たしげに杖で床を叩くブレイズを前に、バスターは黙り込んでしまった。
 ――正直、一人で行けと言われる予想はついていた。だからその選択をあいつが受け入れたなら、あたしは一人で行くつもりだった。元々一緒に居なくてはならない仲ではないし。
 けれど、バスターは力強く首を振った。
「嫌だ。シェーラを一人では行かせない」
「おい・・・何を言ってる」
「兄さんこそ何を言っている? あんな姿でも彼女は気丈に生き、戦っている。辛いだろう、好きでなったわけじゃないんだ。でもおれは気にしたことなど無いぞ。彼女は彼女だ、シェーラなのだから。
 おれはこの先も彼女と一緒に行く」
 こんなに主張を押し出したバスターを、あたしは見たことが無い。それは兄貴も同じだったのだろう。鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしているから。それに多分、あたしも同じ顔をしているはず。
 行きずりの縁で出会い、成り行きで共に居た。戦えない彼を補う役割をあたしが担った。土に放り出した種に水をやったことなど一度も無い。どちらかが消えれば片方は先に行くだけの関係だった。けれど今、種が芽吹いていたことを知った。いつの間にかあたし達は共同体へと意識を変えていたらしい。
 バスターは立ち上がり、あたしからコーヒーカップを取り上げて手を掴んだ。
「行こう、シェーラ」
 それは頷かずとも連れてゆかれそうな声色で。しかし兄貴の方を振り返った彼の声は、やはりいつも通り優しかった。
「・・・また会おう、その時も二人で会いに来る」
 見送るブレイズの表情は苦く、あたしを見下ろしたバスターの顔とは正反対。それでも、こいつは兄を愛していることに変わりが無いのだろう。どんなにぶつかり合おうとも。

 その日の夜。すっかり暗くなった空の下、樹上の枝に寝そべってバスターの方へ顔を向けた。隣の大枝に跨がるあいつは視線に気づくと暢気に手を振ってきた。本当にお人よしな奴だ。それに馬鹿がつく程優しい。だからあたしは、何時までもこいつと居られるのだと思う。
「おやすみ」
 口だけで囁き、視線を空へ戻す。
 ――あの後見つけた食糧庫でまたゾンビに襲われたことさえ、水に流しても良い気分で。


体力21→13/食糧34→32
アイテム:安全靴、治療薬/銀色の鍵(クリアフラグB)
※安全靴:【探索】時食糧減少を1点抑える(最低1)
※治療薬(ゾンビ化回復/使い捨て)
※ハーフゾンビ化(シェーラ):永久にゾンビ化しない、同行者を持てない

今日のシェーラ:【アクシデント】同行者が、足を痛めた家族に再会。残念だがここでお別れだ。【同行者】を連れている場合、一人失い、今までのお礼に食糧10を得る。連れていない場合、食糧-2。

今日のバスター:【アクシデント】食料庫発見、だが大量のゾンビがそばにいる! 今が12~23時なら抜け穴を発見し、食糧+5。それ以外ならゾンビに襲い掛かられ8のダメージ!
http://shindanmaker.com/23593

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こちらは一次創作サイト Dreaming moomoo のブログであります。サイトへは上プラグインのリンクよりおいで下さいませ。
尚、当ブログ内に掲載されたSS、イラストの著作権は早蕨紫苑に帰属します。

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