轟々と唸る水流。ここはそんなに流れの強い川ではなかったはずなのだが、折しも夜中降り続いた雨で水嵩が増したらしい。下流に向け、まるで竜の進撃のように波が駆け降りていく。
そもそも、何故こんな危険な場所を渡る羽目になっているのか。元々川には木の橋が渡されているはずだった。粗末なものだったが穏やかな川には似合いの橋。けれども水嵩が増え、それはあっという間に流されてしまったらしい。事実、あたし達が辿り着いた時には橋など跡形も無くなっていたのだから。しかし跡形も無く、というのは事実ではなかった。橋の手摺りにされていたロープだけが辛うじて残っていたのである。それだけが今や命綱というわけだ。
「あっ」
川の中程で急にバスターが声を上げたものだから、あたしも思わず「ひっ」と情けない声を上げてしまった。照れ隠しを兼ねた藪睨みも、その矛先に途方に暮れきった顔があるので気を削がれてしまったけれど。
「・・・何よ?」
「薬、流されてしまった」
「馬鹿ねほんと」
所詮いざという時の保険だ。今失っても痛みは無い。それでもすまなそうな顔をする彼を、川から上がったら一番に殴ってやろうと思う。
川を抜けた先は森。その先には小さな学校がある。ここらは自然が多いから子供の教育には持って来いだろう。
「シェーラ、少し休もうか」
あたしに殴られた額を摩り摩り、バスターが言う。瘤になる程は殴っていないのだから、まだ手を離さないのは彼のひそやかな意趣返しのはずだ。
「まーちょっと寄ってっても良いわよね」
木々の合間から見える赤い屋根を目指し、進む。珍しい木造のこじんまりした学舎。ここまではゾンビの手も届かないのか、綺麗なものだ。川に囲まれた環境も幸いしているのかも知れない。中も埃っぽいだけで荒らされた様子も無い。
「ここなら安全だったろうに」
「皆家に帰りたがったんでしょうよ」
「・・・」
残念そうに肩を落とすそいつを無視して、椅子の一つにどっかと座り込んだ。今更選択の当否を嘆いても無駄だ。けれど優しいこいつは、何時までもその間違いを悔やむだろう。
・・・暫く一人にしてやろう。そう思って、彼を残して校内を漁りに出掛けた。めぼしい場所を埃に噎せながら探し回る。そうしていれば考えないで済むからだ。
(あいつから離れたのは、悲しみに暮れるあいつを、あたしが見ていらんないからさ)
――結局、戦利品は鉄製のバット一本だった。食糧の類が残っているわけは無いと思っていたし、武器になりそうなものがあっただけマシだ。ズルズルとバットで床を擦りながら教室を覗く。バスターは随分回復したようだった。あたしに気づき、にっこりと笑って見せたからだ。
「余計物騒になったな」
「何ですってえ?」
バスターへバットを振り上げる。勿論冗談――半分は、だけれど。笑いながら防御を取る彼の、無防備な脇腹へフルスイング・・・寸でで止める。笑うあたしに、バスターは額の汗を拭ったようだ。
日が暮れ始め、窓からオレンジの光を長く伸ばし出した。ここで長居している場合ではない。あたし達の目的地はまた別にあるのだ。
病院警護。外敵から施設を守ってほしいというお触れを耳にしたのは最近だった。尋ねるまでも無く、行くと言うバスターに溜息を吐いた記憶が脳裏に浮かび上がる。
とは言え、屋根も簡易ベッドも綺麗なシーツも暖かい炊き出しもあるのは魅力に違いない。結局メリットにあたしも負けた。院長からの「素性は問わない」という御達示も、今のあたしには有り難かった。それでも一応、ボロいマントを用意するつもりだけれど。
「ほら、さっさと行かないと。夜になったら襲撃者と鉢合わせかねないかんね」
「分かっている」
あたしら二人の影が、長く伸びながら道の先に揺れた。
体力13→13/食糧29→26(更に#病院警護で-3)→23
アイテム:安全靴、バット/銀色の鍵(クリアフラグB)
※安全靴:【探索】時食糧減少を1点抑える(最低1)
※バット:【戦闘】時ダメージを1点軽減(最低1)
※ハーフゾンビ化(シェーラ):永久にゾンビ化しない、同行者を持てない
◆アイテム超過→治療薬をアクシデントで失い、バットを得る
今日のシェーラ:【探索】学校の用具置き場を捜索。バット(【戦闘】で受けるダメージ常に-1。最低1点は受ける)を得た! 実に手になじむぞ。食糧:-2
今日のバスター:【アクシデント】川を渡る途中、持ち物が流されてしまう。アイテムひとつを失う(持っていれば)。持っていなければあなたが流され、8のダメージ! いずれにせよ食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938
[0回]
PR