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夢を見ましょう

インクに浸したペン先で、そっと、静かに。

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ゾンサバ #5

 コン、と小石を放る。あたしはさっきからそうして、手近にある何かを摘んでは放りを繰り返していた。
(眠れないもの)
 目を閉じるのが恐いから。

 弟は、あたしより三つ下だ。あちこちふらつく根無し草のあたしと違い、あいつはしっかり者で良い子。実家に残り、父親の世話をしながらデザイナーの仕事をやっている。時折街頭であいつの手掛けた広告を見たりすると、妙にくすぐったい気分になった。道行く奴を捕まえて、あれはあたしの弟が作ったんだと言いたくなった。
 ・・・ふと、弟のことを現在進行形で考えているのに気づいて舌打ちをする。馬鹿な姉だ。あの子はもう居ないのに。
(逃げたらいけなかったんだ。あいつを置いていっちゃった)
 そう思ったけれど、あたしを逃がそうとしたバスターを恨む気にはなれなかった。きっと彼は恨んで良いと思っていることだろう。あいつは優しくて馬鹿なのだ。

 キィ、と扉が軋んだ。一瞬緊張が走ったがすぐに収まる。バスターだ。
「合言葉言いなよ」
「あ、すまん、忘れていた」
 ほら、やっぱり馬鹿なのだ。緊張して損をしたとふて腐れたあたしに、彼が手渡したのはカロリーメイトだった。
「ドラッグストアに残っていた。食べたら眠ろう」
「・・・そうね」
 この辺りにゾンビの影は無かった。今まで追い回されっぱなしだったお陰でくたくたの身体は、眠りたくない気持ちに反して瞼を塞ぐ。それに今は、背中に一つ温もりがある。背中合わせに感じるバスターの体温が余計に眠りを誘った。
 ゆるりと瞼が落ちた。

 ――姉さん!

 夢が破裂した。一気に覚醒した身体が腐臭を嗅ぎ取る。唸り声と足音を聞き取る。
「バスター!」
 飛び起きて彼を蹴り飛ばす。一瞬寝惚けた顔をしたこいつも、あたしと同じ異変にすぐ気づいた。がばっと身を起こし、ザックを引っ掴む。
「逃げよう」
「オッケー!」
 この辺りは路地が入り組んでいる。逃げるのに最適だからと選んだ塒なのだ。追いつかれるはずが無い。
「とは言っても・・・囲まれる程寝入ってしまうとはな」
「仕方ないんじゃない? 最近ゾンビとエンカウントばっかだもん、疲れてんのよ」
 確かに、と応えたバスターが笑っている。こんな状況で笑えるのが何だか幸せに感じた。

 ざふん。

 踏み込んだ足下で妙な音。そして浮遊感。
「へ?」
 スローモーションで視界が下方へ平行移動していくのを理解出来ない。けれどそこからは速かった。――あたしは、下へ落ちたのだ。


体力80→70/食糧81→76
アイテム:治療薬、寝袋

今日のS:【ACD】まだ大丈夫、自分は運が良い・・・そんな余裕が命取り! 就寝中ゾンビの接近を許してしまう! HP90以上なら20(さもなくば10)のダメージ! 食糧:-2

今日のB:【ACD】狭く細い道を逃げる途中、仲間とはぐれる。今回と次回は、【同行者】の効果とフォロワーの助けを受けられない。なに、元々一人? ならば問題ない。食糧:-3
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #4

 これは失策だった。猛スピードで瓦礫だらけの廊下を駆け抜けながら舌打ち――しようとしたが、口を開けると反動で舌を噛みそうになるので堪えた。角を曲がる。見つけたドアのノブを回すが動かない。蹴りつけても手応えが薄くて開く気配は無い。
「ボロボロの癖に、こういうとこだけ頑丈っ!」
 悪態を吐いたあたしの腕を掴み、バスターが走り出した。左手に右手を引っ張られているのはやたら走り難く、振り解いて駆ける。
「一人で平気」
「ああ、知っている」
「・・・あいつら足は遅いけど、しつこいね」
 先程曲がった角からぞろぞろとゾンビが溢れ出してきている。何を投げつけても追いかけてくるから堪ったものじゃない。

 ――待って。
 コンクリの塊を振りかぶった手を、止めた。
 嘘。脳味噌が否定を吐いた。けれど目が、理性が、「それ」を現実だと認めている。
 ゾンビ共の戦闘で蠢いているあの物体。あれは・・・あれは、とても見覚えのある姿をしているのではないか?

「ロ、ビ、ン・・・?」

 ――姉さん、こっちは無事だよ、今のとこ。父さんと避難するから、この留守電聞いたら連絡して。
(うそ、うそよ、こないだまでちゃんとあいつ――)
 口から飛び出しそうになる狼狽を噛み殺し、あたしは手の中の塊を握り締め直した。

(あたまを、ねらえば、××××。)

「シェーラ!」
 急に視界が揺れた。バスターがあたしを抱えて走り出したのだと気づいた。制止する間ももがく暇も無く、彼は窓をぶち破って隣家の屋根へ転がり落ちる。
「馬鹿、戻って!」
「出来ない」
 そう言ったこいつの頬に思い切り拳をぶち込んだ。バスターは何も言わずに血の混じった唾を吐き出し、あたしに視線を戻す。
「同情ならいらない!」
「違う」
 バスターはそれっきり黙ってしまった。無言で道の先を指す。逃げようの合図だ。

 あたし、分かっていた。今、弟を殺したらきっと壊れてしまうってこと。
 バスター、あんた、あたしを護りたかったって言うの?
 ・・・まさかね。


体力90→80/食糧86→81
アイテム:治療薬、寝袋

今日のS:【戦闘】なんということだ・・・見知った顔がゾンビになっている! 戦って安らかな眠りを与えるなら8のダメージ。戦いを避けて逃げるなら6のダメージ。食糧:-2

今日のB:【戦闘】足の遅いゾンビが襲ってきた! だが、攻撃してもその歩みはなかなか止まらない! じわじわと追い詰められる! 4のダメージ! 食糧:-3
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #3

「これ、豆の味じゃないよね」
 あたしの目の前で、スプーンからぽたぽた垂れ落ちるスープ。そしてその中に浮かぶ豆。ひよこ豆とか言う名前だ。だが今問題なのは豆の名前ではない。バスターは首を傾げ、あたしの缶から一口掬ってスープを飲んだ。途端彼の眉が顰められ、ぺっと傍らにスープが唾ごと吐き捨てられる。
「腐っている」
「やっぱ? 他のもヤバいかも」

 結局、持っていた食糧の一割はダメになっていたらしい。この間から暑い日が続いていたからか。所詮は拾い物、缶自体に傷がついていたりしてそこから傷んでしまったようだった。残った無事な食糧さえ、またいつダメになってしまうか。定期的に中身を点検しないとダメね、とあたしが伸びをした瞬間。

 ゴッ。

 重い音が耳元を掠めて、あたしの前方で地に弾んだ。弾け飛んだ石と刔れた地面。続けざまにヒュン、ヒュンと飛来する音を聞き、食糧を掻っ込んで袋の口を縛った。
「行くよ、バスターッ!」
 ゾンビが投石をしてくるなんて初めてだ。道具を使えるほどの頭を残しているのか。振り向いて確かめたところ、後方の建物の屋根に人影が見えた。一匹が指示を飛ばし、他の奴らが石を投げてくる。どうやら手投以外にパチンコのようなものを使っているのが窺えた。
(ゾンビのくせに生意気な奴!)
 とは言え、下方のあたし達は段違いに不利だ。三十六計逃げるに如かず。飛び散る石の破片を無視して走り抜ける。

 急に、あたしの後ろでバスターの体が傾いだ。振り返る暇が無かったからそのまま走り続けたけれど。――射程範囲外まで逃げて、彼の背中を確認したら、裂けて血が溢れていた。
「ちょっと、やだ」
「大丈夫」
「どこが!」
 バスターのシャツを破り裂いて止血しながら、あたしはその背に額をつけた。
「・・・守ってあげらんなくて、ごめんね」


体力95→90/食糧97→86
アイテム:治療薬、寝袋

今日のS:【ACD】食事に妙な味。食糧が一部痛んでいた! ゾンビの悪臭に満ちた世界だ、気付きにくいのも無理はない。「現在食糧の1割」点の食糧を失う(端数切り捨て)。

今日のB:【戦闘】厄介なことに、知性を残したゾンビが投石で遠距離から襲ってくる! 5のダメージ!(この戦闘ではバット、日本刀、チェーンソーの効果を受けられない) 食糧:-2 http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #2

 街は廃墟。何時まで、何処まで歩いても終わりが見えない。今日は暑いから陽炎が立って余計に先が長く見える。
「バスター、平気?」
 振り返ると、頭があたしの上でこっくりと揺れていた。声に出す気力は無いらしい。あたしよりお天道様に近いから堪えるんだろうか。
 じりじり焼けるコンクリートを避け、木陰の多い公園を選んだ。ゾンビ共の奇襲は怖いけれど、あのままだと二人共目玉焼きになりそうだったし仕方が無い。

「おい」

 突然、木の上から声がした。あたしは勿論、バスターも一瞬で飛び退がって身構えた。しかし声はしっかりとあたし達を呼んだ。「お二人さん」と。
「何さ、同志か。吃驚させないでっての」
「すまんね、ここで隠れてんだ。近くに居るから気をつけな。・・・なあ、あんたらに頼みがあるんだが、聞いてくれるかい?」
 男は食糧と武器を交換したかったようだ。けれど生憎あたし達には役立てる手持ちが無い。寝袋ならとバスターが持ち掛けたが、要らないと言う。
「そっちのでかい兄ちゃんと交換でも良いぞ」
「こいつ役に立たないよ」
 今度はあたしが首を振った。

 ぎゃあ! 急に悲鳴が上がった。男がびくりと身を竦め、さっきの奴らだと言った。あたしは咄嗟に肩掛けザックをバスターに投げつけ、
「あんたが持ってな! あたしが行く!」
 駆け出す。汗が目に入って痛い。擦るのがもどかしくて瞬きで追い出す。
 居た! 子供だ。走る足がよたついている。後ろにはゾンビが二体。――いける!

「坊や伏せなッ!!」

 叫んだのと同時に子供が地に伏せた。あたしの言葉に従ったのではなく、足が縺れて転んだようだがどちらでも良い。あたしはもうその時には跳んでいた。
 狙いは見事に命中、ゾンビ共の側頭部を蹴り抜いた。勢いのまま地面を転がったあたしをバスターが助け起こす。
「大丈夫か? シェーラ」
「平気さ。それより、お腹空いたね」

体力100→95/食糧100→97
アイテム:治療薬、寝袋

今日のS:【戦闘】ゾンビに追いつかれそうになっている子供を発見! 助けるなら5のダメージ。助けなくても君を責める者はいないだろう・・・君の良心の他には。いずれにせよ食糧:-2 http://shindanmaker.com/235938

今日のB:【探索】ゾンビ撃退の戦力を欲しがっている生存者に遭遇。何か武器(【戦闘】ダメージを軽減するアイテム)または同行者を譲るなら食糧9をくれる。いずれにせよ食糧:-1 http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #1

 見目、まだ綺麗な研究所を見つけた。研究所なら薬があるかも知れない。そう思って表へ回る。ドアは無い。無いと言うより破壊されていた。硝子を踏まないようにあたしはエントランスを通り過ぎる。足を怪我するからではない。ブーツの底は厚く頑丈だ。それよりも、中に居るかも知れないゾンビ達を警戒してのことだ。
 研究所内は閑散としていて音一つしない。床に撒き散らされた小さな硝子片を踏む、あたしの足音以外は。廊下の両脇に並ぶドアも大半壊されているから、見通しが良くて助かる。
 一番奥の部屋はロックが掛かっていた。暗証番号を入力する手間を省き、コンソールを蹴り壊す。思った通り警報は切られているらしく、無音のままドアが開いた。
 中は綺麗で壊された物も少ない。どうやらここはゾンビに襲われずに済んだらしい。
 けれど、壁に咲いた真っ赤な花の下で研究員らしい男が一人死んでいた。傍らには拳銃が転がっている。
「・・・あんた、馬鹿ね」
 閉じこもっている最中に絶望したんだろう。一人だけここに逃げ込んだのだろうか。たった、一人で。
(周りを全部見殺しにして?)
 あたしは拳銃を蹴り飛ばし、男に一瞥をくれてから棚を漁ることにした。・・・思った通り、治療薬が一つ。いつか役に立つはずだ。
「立たないに超したことないけどね」

 ――日暮れ前。壊れかけた彫像の陰で「あいつ」を待つ。あいつはとろいからちゃんと戻って来れるかも分からない。けれどあたしは律儀に待ってしまう。
「シェーラ」
 低い声が呼んだ。
「遅いよバスター。もう帰るとこだった」
「すまない」
 待ち人だった男、バスターは体格に見合わない弱々しい顔で笑った。筋骨隆々の癖に、あたしよりずっと大きな癖に、こいつは弱い。戦う意志を持っていないからだ。
 その顔が、あたしはあまり好きではない。だから目を逸らし、バスターの抱えている「戦利品」を顎で指した。
「何それ」
「寝袋だ。最近のは入ったまま歩けるらしい」
「じゃ、あんた着たまま歩きなよ」
 小さくバスターが笑った。笑うと目元がくしゃっとして子供みたいになる。その笑顔は、少し気に入っている。
「ほら行くよ。暗くなる前に撤収」
「分かった」

 夕陽の中に影が二つ。女の影には左腕が無く、男の影には右腕が無かった。


体力100/食糧100
アイテム:治療薬、寝袋

今日のシェーラ:【探索】研究員らしき死体を発見。どうやら自ら命を絶ったらしい・・・治療薬(ゾンビ化しつつある者を元に戻す。使い捨て)を得た! 食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938

今日のバスター:【探索】ホームセンターを捜索。寝袋(【休息】が出た場合、本来の効果とは別にHPを1点回復する)を得た! 最近は歩ける寝袋というのもあるらしい。食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938

※この時、食糧の-値を反映させるの忘れてました。

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