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夢を見ましょう

インクに浸したペン先で、そっと、静かに。

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ゾンサバ #15

「シェーラ、ここで待っていろ」
 ――つぎはぎゾンビから逃げ出して間も無く、担いでいたあたしを下ろしたバスターはそう託けて行ってしまった。これは多分、壊れた地下鉄の車両なのだと思う。地上に出た所で襲われ、横転したのだろう。地下だからと言って安全ではないが、若しもずっと地下に居られたらこんな騒動に巻き込まれずに済んだのだろうか。
「馬っ鹿馬鹿しー・・・」
 この世界、既に何処も安全ではないはずだ。女子供も戦う術の無い者も皆巻き込まれている。唯一空だけが安全な場所だろう。車両が横転している所為で、今あたしが横になっているのは長椅子の背凭れだ。硝子片はバスターが払っていってくれたので、思いの外快適である。
 そして、寝転がった真上の窓から空が見えた。切り取られた四角い、連続した空を時々鳥が横切っていく。あいつらは呑気で良いなぁと思うけれど、こんな世の中じゃ餌を取るのも一苦労だろうから結局人も鳥も変わらず世知辛い。

 首の出血は大分収まってきたらしい。痛みも抜けてきた。こんなことならバスターについて行けば良かったと、独りなのを良いことにわざとらしく唇を尖らせてみる。ここの所あたしはあいつに護られてばかりではないか。
(不満っちゃ不満よねえ)
 そもそも大の男一人を護ろうというのが無理な話かも知れないが。それもこんなトンチキな世界で。それでも、そうして護り抜く度に自分が強くなれる気がしていて好きだった。要は自己満足とも言える。相手がバスターで無くとも、あたしはそうしていただろう。
 けれど、少しは。少しは、あいつだからという部分が、今は。

「シェーラ」「わっはい!!」
 ひょっこり視界に飛び込んできたバスターに名前を呼ばれて、素っ頓狂な声が出てしまった。急に呼ぶなと怒鳴ると相変わらず情けない顔で笑う。
「あまり大声で呼んだら不味いと思ってな」
「そりゃ・・・そうだけど」
 だからって、と言い掛けて止めた。今回はあたしが悪い。非を認められない程子供じみてはいないつもりだから、素直にごめんよと謝った。
「でも吃驚した」
 まあ、噛みつくのは忘れないけれど。不貞た子供を宥めるようなあいつの顔が余計癇に障ったものだから、隣に腰を下ろしたあいつを蹴りつけてやった。
「痛い・・・」
「知ってる。・・・で? 何か見つけた?」
「鍵を見つけた。シェルターの」
 そこで言葉を切った彼の顔を見上げる。
「・・・置いてきた」
「・・・上出来」
 拠点は要らないと言ったあたしの言葉を覚えていたのだろう。あたしがにっと笑う顔に釣られてか、バスターも珍しく悪戯っ子みたいな笑顔を見せた。ザックを担ぎ直して立ち上がる。バスターは寝袋と食糧袋。多少の食糧を、今は二人で分けて持っている。以前マンホール事件で分断された際、片方だけに食糧を担わせると危険だと分かったからだ。
「さーて、行こっかぁ」
 桃源郷でも探しにさあ。あたしが言うとバスターがぷっと噴き出した。そんな場所があるとは思えないが、少しくらい希望を添えても良いじゃないか。殊更良い物件が見つからなければ、今日の桃源郷はこの電車になりそうだけれど。


体力27→32(寝袋効果)/食糧58→54
アイテム:安全靴、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
◆超過→シェルターの鍵を捨てる

今日のS:【休息】横転し廃棄された無人の電車が今日の寝床だ。傾いた座席で眠る・・・意外と悪くない寝心地だった。HP:+4 食糧:-2

今日のB:【拠点】金持ちらしき死体の上着から、無人のシェルターの鍵(アイテム扱い。以降【休息】が出るたび、その内容を「HP:+1 食糧:-2」に変更してもよい)を発見! 食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #14

 ――疲れた。半分ゾンビ化しているこの身体なのに疲れるというのはお笑い種だが、事実疲れているから堪らない。狙われない為動き回り、動き回る為食糧を探して動き回り、疲れを癒す為に塒を求めて動き回る。どう足掻いても生き残る為には動き回らなくてはならない。
「ねえバスター、何かあった?」
 隣室の相棒に問い掛けながらクローゼットを開ける。着る物か、若しくは隠された食糧でもあればめっけものだ。それが例えおやつでも。
 が、見つかったのは予想外且つ望まぬモノだった。そいつは飛び出すや否や首目掛けてすっ飛んできたので避ける暇も無く。
「ちょっ・・・あんたはお呼びじゃないんだよ!」
 噛みつかれた首に痛みを感じる。そこはまだ無事な部分らしい。ゾンビにとってはご馳走だろうが、喰わせるわけには当然いかない。
「邪魔ぁっ!」「シェーラ!」
 あたしがゾンビを蹴り剥がすのとほぼ同時に、バスターが駆け込んできた。物音がしたからと言った彼はあたしの首を見て顔色を変え、クローゼットからタオルを拝借してそこに押し付けてきた・
「痛ったいんだけど・・・」
「出血が酷い、暫く動かない方が」

 と、その時唐突に、家全体がズズンと揺れた。何か大きなものがぶつかったような衝撃。トラブルはトラブルを呼ぶらしい。
「若しかして、あたしが厄年かな
 呟くあたしにバスターが笑う。力無く。けれども壁をぶち破って現れた新手の敵には、流石のあたし達も顎が外れたみたく大口を開けてしまった。
 ――でかい。明らかに人間のそれではない。縫合痕だらけの身体、ジャガイモみたいな頭、丸太のような腕。ヤバい。勝てるわけが無い。こんなモンスターみたいな奴、それこそ笑えるレベルでヤバい。逃げようとあたしが呼んだのに、バスターはそれを無視した。傍にあったコート掛けを(そんなもの爪楊枝より役に立たなそうなのに)手にして、大声を上げて隣の部屋へ駆けていく。
「ちょっと!」
「外へ逃げろ! おれは後から行く!」
 後から? 馬鹿な!
 急いで追い掛けようと立ち上がったはずのあたしの足は、くらりとまた膝を折ってしまう。――血が足りてない。
(だからあいつ、引き離そうと・・・)
 しょうもない馬鹿だと床を殴りつけたかったが、生憎腕はタオルを押さえていて塞がっている。兎も角早く外へ離脱しなければ。あたしがここに居る限り、バスターはあの化け物を引きつけ続けるだろう。
 フラフラとだが足は何とか地を踏んでくれた。走ることは出来ないからのったりとしたスピードで外を目指す。幸いにも化け物ゾンビが開けてくれた穴から外に出られる。外へ踏み出した途端、崩れるように身体が倒れた。舌打ちしながらタオルを振り捨てて起き上がる。その、上を。

「うおあぁぁっ!!」

 人が宙を飛ぶシーンというものは、現実には滅多に見られないものだと思う。それも筋骨隆々の男がすっ飛んでいくシーンは。まるで映画のワンシーンのように吹っ飛ばされていったバスターは、向かいの家の壁にぶち当たって落ちた。
「バスター!」
「・・・平気だ、逃げよう、シェーラ」
 平気だと言える勢いでは無かったように思うけれど、バスターは多少ふらついただけで起き上がる。こいつ、骨がチタニウムで出来てんじゃないだろうか。
 伸ばした腕を掴み、あっさりとあたしを担ぎ上げると、ダメージなど感じさせない足取りで彼は駆け出した。後ろを向いているあたしの視界から、つぎはぎゾンビが小さくなって消えていく。
「・・・ゾンビって外科手術出来んのかな?」
 問い掛けに言葉は返って来なかった。が、答は明白。出来るわけが無い。――ならば。
(誰かが裏で糸を――・・・)


体力44→27/食糧61→58
アイテム:安全靴、寝袋/銀色の鍵(フラグB)

今日のS:【戦闘】クローゼットからゾンビが現れ、至近距離でのとっくみあいに! 6のダメージ!(この戦闘では拳銃、ライフル、ショットガンの効果を受けられない) 食糧:-1

今日のB:【戦闘】全身がツギハギになった巨体のゾンビに遭遇! もしやゾンビを人為的に改造した者がいるのか? ともあれ戦わねば切り抜けられない! 11のダメージ! 食糧:-2
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ゾンサバ #13

「バスター、あんた厄年だったりしない?」
 思わず恨み言めいた冗談を言いたくなるくらい、今の状況は笑えないものだった。一夜の宿としていた家にゾンビが押し入ってきたのだ。夜のことだったし気づくのが遅れた。そしてこの様――出口を塞がれ、カビだらけのキッチンに追い詰められている今に到る。
「マジどうすんのこれ」
「どうすべきかな」
「生きて出られる方法考えてよ」
 軽口の応酬になってしまうのは実は焦っている証拠だ。逃走生活も大分長い。体力馬鹿のバスターまで疲労の色を濃くしている。あたしが「こんな姿」になったことも、若しかすると影響しているのかも知れない。気にしていない素振りだが、気にならないわけがないから。

 わっとゾンビ共が一斉に飛び掛かってきた。下がるにもそこは壁で、万事休すかと思われた――が。

「ハチャァ!」

 奇妙な、けれども覇気の篭った掛け声と共に後続のゾンビが何体か吹っ飛ぶのが見えた。掛かってくるゾンビと応戦しながら目を凝らす。戦っているのは――、
「は・・・神父?」
「今の内に突破するのだ! 早くこちらへ!」
 言われるまま、あたし達は数の減ったゾンビの群れへ突っ込む。転んだ奴を踏み越えるようにすると案外さくさく向こう側へ進めた。ちらりと確認しただけだが、バスターも遅れてはいない。

 群れから飛び出しリビングへ転がり出る。当然追ってくるゾンビ共とあたし達の間に立ち塞がったのは、黒い司教服を着た老僧だ。彼の妙ちきりんな動きをあたしは知っている。カンフーというやつだ。独学で色々な体術を覚えている時期に見た覚えがある。
「あの、あなたは」
「自己紹介は後だ、お逃げなさい君達。ここは私に任せて、さあ!」
「ヒュー、カッコイイ、映画みたい」
 立ち上がり神父の隣を陣取ると、あたしは手近にあった椅子を引き寄せた。
「あたしもチャーリーズエンジェルに憧れてんのよねえ!」

 ――二人掛かりで群れは何とか撃退出来た。暗がりの中で戦うこと程やり辛いことは無い。何度かゾンビと間違えて相手を狙いそうになってしまった。どっかと床に座り込んだあたし達の傍へ、バスターが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか」
「ああ勿論。こちらのエンジェルがお強いものだから」
「やーねぇ、そっちのカンフーも凄かったじゃない」
 いやいや、と首を振る神父は満更でも無さそうである。恐らく自信があるのだろう。こんな老人が一人で居るのも、その自信が後ろ盾だからに違いない。
「神父様はどうしてここに?」
「ゾンビがここに入っていくのを見て、暫く様子を見ていたら話し声がしたものだからね」
 応戦しにきたのだと言う。全くありがたい限りだった。キッチンでゾンビに喰われるなど洒落にもならない。
「しかし・・・」
 バスターをしげしげと眺め回した神父は首を傾げ、
「君は見掛けの割に繊細なのかな?」
 聞かれたそいつが困り顔をしたので、返答はあたしが引き継ぐ。
「そいつ戦えないのよ」
「ほほう?」
「だから代わりにあたしがね」
「成る程強いわけだ。君が彼の守護天使なのだね」
 笑んだ神父に何も答えず肩を竦める。それを彼は照れと取ったようだった。

 しかしだね、と神父は更に言葉を続け――そこで一度唾を飲んで間を溜めた。
「実質一人で戦い続けるのは大変だろう。私は手隙だから、良ければ」
「ああ、あの、良いの。・・・連れを増やせない理由があってね」
 首を振るあたしを訝しげな視線で神父が見る。これは百聞は一見に如かずだろう。リビングの壁を蹴り破り、月光を浴びる。暗闇に慣れた目ならばあたしの現状を見るに十分事足りるはずだ。
 案の定、神父は息を呑んだ。
「・・・ね?」
「君は・・・そうか、そういうことかね」
 驚きに声を震わせたものの、神父はそれ以上何も言わなかった。けれどその代わり、あたしへ祈りを捧げてくれた。手助けの礼と祈りの礼、それと健闘を称え合い別れる。その際、神父がバスターに何か耳打ちをしていた。そしてあたしが幾らそれを尋ねても、こいつは絶対に教えてはくれなかった。


体力52→44/食糧63→61
アイテム:安全靴、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
◆同行者は持てない→神父を置いていく

今日のS:【同行者】カンフーの達人な神父(アイテム扱い。3回まで【戦闘】で受けるダメージを0にできるが、連れている間毎日食糧1)が同行を申し出た。連れて行くかは好きにせよ。

今日のB:【戦闘】廃屋の中でゾンビの集団と遭遇! 出口をふさがれた! 8のダメージ!! フォロワーの助けを得られるなら5のダメージ!。 食糧:-2
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ゾンサバ #12

 無人の消防署というのは不思議な感じがするものだ。いつも人の溢れた場所というわけでもないのに、いざ本当に無人になってしまうと静か過ぎる。何処で火事が起ころうとももう光らないであろう赤色灯を見上げていたあたしに、バスターが声を掛けた。
「シェーラ、こんなものがあったぞ」
 片手に振っているのは信号弾のようだ。助けを呼ぶ時に打ち上げるアレである。
「・・・置いてって良いんじゃない? あたし達以外に、ソレが必要な奴は沢山居るでしょ」
 この生活の中で他人の命を気に掛けている場合ではない。が、あたしにしてもこいつにしても、少なくとも子供の命を踏み台にしてまで生きたいとは思わなかった。この支えの無い生活の中で、信号弾は若い心には心強い助けになるだろう。
「分かった・・・戻しておく」
「分かりやすい所にね」
 あたしがそう言うとバスターが笑った。

 その、帰り道。
「ほんっと最近ツイてないよねぇ、あたし達・・・!」
 狭い路地を選んだのは人目に触れず、安全に進めると踏んだから。ここの所のあたしの勘は全部空振りばかりで厭になる。しかも一体二体ではなく団体で来るのだから余計始末に負えない。逃げ続けの毎日に疲弊した足がふらつき、それに気づいたバスターが手を差し出したが、
「馬鹿、ンなことしたらあんた、荷物落とすでしょ!」
 パシンと弾き、体勢を立て直して走る。大事な食糧を落とされるのも困る。それに、この手を引かれることに抵抗もあった。
(あんたの手が汚れるもんね)

 ふと、微かにバスターのスピードが落ちた。
「シェーラ・・・・・・まずいぞ」
 走っている所為だけでない、切羽詰まった声音に不安感。一番嫌な予想を抱いて大柄な身体の向こう側、進行方向の先を覗く。
 ――行き止まりだ。
「あーもう・・・!」
 最悪! 毒づくあたしを宥める声は無い。そんな余裕も無いのだ。行き止まりとは言えそこはフェンスで阻まれているに過ぎない。だがここで足止めを喰っている間にゾンビ共は追いついてくるだろう。どちらかは確実に奴らに襲われる。
「バスター、先に昇んな!」
 選択の余地など無かった。反論しようとしたそいつの尻を蹴っ飛ばす。
「あたしの力じゃあんたを引き上げらんないでしょ! 先にあんたが昇って、それからあたしを引き上げな!」
 ――それは半分本音で半分嘘。確かにあたしではこいつを引き上げられないけれど、理由はそれだけではない。今でもあたしは、精一杯こいつを護ろうと思っているのだ。
 迫るゾンビの集団。バスターがフェンスに手を掛けたのを知ってか咆哮を上げる。
「くっさい息混じらせないでよ、空気が腐るッ!」
 身体をバネのようにして先頭のゾンビへ蹴りをお見舞いしてやった。狭い道はあたし達にも不利だったが、応戦するのにはうってつけだ。先頭を牽制してやるだけで十分足止めになる。
 しかしゾンビ共も黙ってやられてはくれない。蹴った足に纏わりつき、そこへ大口を開けて噛みついてくる。半分腐った肉に痛みは無いが、まだ無事な肉が痛い。勿論傷から血が溢れてもくる。
(あー、まだ生きてるって感じ)
 死にそうな時に面白いことを思うものだ。そんな笑いが込み上げかけた時、天からあたしを呼ぶ声が。

「シェーラ、掴まれ!!」

 仰げばバスターの手が伸びていた。足を齧る連中を毟り取り、フェンスを蹴って飛んだ。一本しか無いあたしの腕は、一本限りのバスターの手をしっかと握り締めた。
 その時引き上げられる感覚は、まるで飛んでいるかのようで。こんな風に思えるのなら手を取られるのも悪くはないと、思ったのだ。


体力61→52/食糧67→63(安全靴で-5→-4)
アイテム:安全靴、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
◆超過→救難信号弾を捨てる

今日のS:【戦闘】狭い通路でソゾンビの集団と遭遇! 単独突破は難しい! 9のダメージ! フォロワーの助けを得られるなら6のダメージ。 食糧:-2

今日のB:【探索】消防署跡で、救難信号弾(使い捨て。これを使用したとツイートし、24時間以内にフォロワーーの助けを得られれば最新の診断結果を無効化できる)を発見! 食糧:-3
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ゾンサバ #11

「な、い、わ、・・・ッマジ最悪!」
 走る度ずくずくと弛む足の腐肉に不快さを感じながら、弾む息の合間に悪口を吐き捨てる。バスターがあたしを振り返るが拒むよう首を振った。こいつはあたしを担いで走ると言ったけれど、馬鹿を言わないでほしい。あたしが触れたらあんたの服は腐肉でドロドロになるのだ。洗濯する水と場所がどこにある。
 床に空いた穴を大きく跳躍。バランスを崩しかけたあたしを、バスターの左手が掴み引き上げていく。サッと肩からずり落ちかけたザックを戻し、次の角目掛けて走る、走る。静かなショッピングモールだったから何も居ないと踏んだのに、当てが外れてしまった。モールにゾンビというのは一種の定石なのだろうか。他の場所でも遭遇した話をちらほらと聞くが。

 漸くモールの端が見えてきた。大型モールの端から端までの疾走など、もう二度とやりたくない。
「てか、ウィンドウショッピングくらいさせなよっつーの・・・!」
「同感だ・・・」
 ぼやきに呟きの返答。思わず笑ってしまって息が苦しくなる。お互い次はどうするかなど分かっているから、特に声を掛け合うことも無く、そのまま勢い任せに閉じられた硝子ドアへと突っ込んでいった。
 一足先にバスターが、続いてあたしが飛び込んだお陰で、硝子の被害はさして被らずに済んだ。彼の切り傷は心配だが・・・あたしが硝子に直撃した場合、身体が保つのかという心配があったので今回ばかりは仕方無い。間髪入れずにまた走り出し、広い駐車場を飛び出した頃にはもう追っ手の姿は完全に見えなくなっていた。
「あーっ・・・体力使ったわ」
「ああも数が多いと流石に・・・うん?」
 身体を折り、ぜえぜえ息を整えるあたしの隣で、同じく肩で息をしていたバスターの言葉が途切れた。見れば何かを探すように背を伸ばしている。
 直ぐ、何を探しているかは分かった。――声がする。
「あっちね」
「うむ」

 近づく程にそれは人の声に聞こえてくる。騒ぎ立てる声と、もう一つは慌てたような声。騒ぐ声が大き過ぎて良く聞き取れない。

 ――くすりをよこせえ! たすけてくれえ、くすり、くすり、あんなやつらになるのはいやだぁあ!
 ――そ、そそそそそんなものないですよ!? た、たすけられません・・・!

 見つけた。フェンス際に追い詰められた少女らしき人影と、今にも掴み掛かろうとしている男。男の方はどうやらあたしと似たような状況らしい。尤も、あの男はもう直ぐ自我も何も無くしてしまうのだろう。
 あたし達の手元には以前見つけた薬がある。もう片足をゾンビに突っ込んだあたしには無用の長物だが、バスターには必要な代物だ。だから一応、彼へ目配せをしてみる。それに気づいたバスターは、優しく微笑して頷いた。
「そうよね、あんたはそう言うと思ったわ。――ちょっとお嬢、これ受け取んな!」
 あたしが投げ渡した薬を危うく取り損ねそうになりながらも、最終的に彼女はその両手にしっかと握り締めた。
「こ、これ、はいっ! どうぞ!」
 唐突で訳が分からないなりに、あたし達の意図する所は伝わったようだ。慌てて迫る男へ薬を突き出すように渡す。ぽかんとした顔をした後、男は恐る恐るそれを受け取り、そして崩れかけの顔を歪ませた。
「ああ、りが、とう」
 多分それは、笑みではなくて泣き顔だったのだと思う。

 ――大変な目に遭ったねえ、とあたしが言った時、少女は苦笑を浮かべて首を振った。人助けが出来たのは嬉しい、ということだろうか。まだティーンであろう容姿で一人旅。心細いし危険だろうとバスターも心配そうに問う。けれど彼女――フェイリヤと名乗った少女は大丈夫だと笑った。
「ま、アレよね。また行き会うことがあったら宜しく。たまには助け合いも良いもんでしょ」
「はい! あ、あのっ・・・」
 今の話で思い出した、とでも言うようにフェイリヤが差し出したのは幾らかの缶詰だった。聞けば、先程の治療薬の礼だと言う。幾ら何でも子供から貰えないと突っ返したが、生存者としての立場は同じだと言われて仕方無く受け取る羽目になってしまった。

「良い子だったね、あの子」
「ああ」
「・・・フェイリヤと言い、米子と言い、子供ってやっぱ良いわ」
 和む、とあたしが漏らすとバスターが笑った。子供好きのこいつにはさぞかし潤いになったろう。
「っ・・・うっ」
 そんな会話の最中、急にバスターがガクッとつんのめった。
「ちょっと・・・大丈夫?」
「ん・・・靴が」
 ひょいと覗き込めば、成る程ブーツの底が剥がれ掛けてベコベコなっていた。酷使に耐え兼ねたのだろう。寧ろ良く保った方だ。折しも立ち止まった場所から三軒先はスポーツショップ。こいつの履いていたような軍靴は無いだろうが、似たようなものなら見つかるだろう。
「新しいの探してきたげるよ」
「頼む」
 店に爪先を向けたあたしの背に、「これから何足靴を潰すだろう」という呟きが刺さる。
 何足潰すだろうか。何日この生活は続くだろうか。あたし達が生きていることを「当たり前」と言える日々に戻れるのは――いつになるのだろうか。


体力69→61/食糧66→67(フェイリヤとの交渉で+5/全体的に敬称略)
アイテム:安全靴、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
◆治療薬:ゾンビ化しつつある者を元に戻す/使い捨て→食糧5と交換(フェイリヤ)

今日のS:【戦闘】建物の中でゾンビの集団と遭遇! 出口まで走れ! 8のダメージ! フォロワーの助けを得られるなら5のダメージ。 食糧:-2

今日のB:【探索】アウトドア用品店を捜索。平和だった頃が早くも遠い昔の夢のように思える・・・安全靴(【探索】で減少する食糧が本来より1点少なくなる。最低1)を発見! 食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #10

 ――昨日のアレを無かったことにしたい。
 一人繁華街の成れの果てを歩きながら、朝から断続的に込み上がる何度目かの思い出し何とやらに頭を抱える。本当に情けない姿を見せたものだと思う。思いもかけない事態で混乱していたとは言え、あれはあまりにも酷い醜態だった。出来ることなら、バスターの頭をかち割ってあの記憶だけ抜き取ってやりたいくらいだ。
(後、あたしの中の記憶も抜きたいわ)
 羞恥で人が死ななくて本当に良かった。若しそれが死因になり得るならあたしはとっくに死んでいる。
(・・・この身体で死ねるのかは知らないけど、ね)
 この身体。半分死人とと化した身体。姿は似ているがどうやら完全にゾンビとなったわけではなく、所謂半死人とでも言うべき身体になっているらしい。意識はしっかりしたままだから脳は無事なのだろう。多少腐臭はするものの、髪や目、鼻は溶けずに残っている。
 ・・・但し、爪は腐り落ちてしまった。

 しかし、案外ゾンビは仲間を嗅ぎ分けるのに長けているらしく、この姿をしていようが問答無用で襲い掛かってくるのだった。脳味噌と肉が残っているのがいけないのだろうか。
 そんなことを考えながら、あたしは一軒の建物に足を向ける。比較的綺麗な(とは言えかなり汚い。単に倒壊を免れているだけの)ビルだ。入口に掲げられている看板の電球は虚しく割れ、かつてのネオンの面影も無い。
 カラオケボックス。無論歌を歌いに来たわけではない。防音性の高い部屋ならば、多少の物音に気を遣わず寝泊まり出来ると思ったのだ。窓が無くドアのみが出入口な所が難点だが。
 キ、と手近なドアを開けたあたしは――そっとそれを閉めた。
 ソファーに座り込みテレビ画面を、恐らくこの建物が襲われた時から点いているのであろう、宣伝を延々と流すテレビを見つめているゾンビが居たからだ。ゾンビもテレビ見るのね。思わずあたしは口からそう漏らしていた。
 電気が通う建物は貴重だが、無用な争いは避けるべきだ。後何匹隠れているか分かったものではないのだし。

 そうして実入りの無いままバスターとの合流地点へ向かうあたしの耳に、ボウボウと低い音が飛び込んできた。それと重なるように聞き慣れた声もする。
「向こうへ行け、これはやれないんだ!」
 バスターだ。酷く焦った声。引っ切り無しに鳴る低音の主が何か分からず、あたしは建物の陰からそっと様子を窺った。
 ・・・何のことは無い。あいつは野犬の群れを追い払おうとしていただけだ。さっきのボウボウ言う音は野犬の吠え声だったわけである。馬鹿なあいつは犬でさえ殺せない。仕方無くあたしは陰から飛び出し、彼の元までひた走った。そのままの勢いをつけ、野犬の中へ飛び込む形で踏み切る。跳躍した身体は地に着地した瞬間にずくんと疼いた。振動が腐肉を揺らす感覚が気持ち悪い。
 けれどお陰で、踏み潰した犬の頭の感触をまざまざと感じなくて済んだ。一頭がやられた所為で群れは散り散りに逃げ去っていく。

 ぎょっと目を剥いたバスターが、あたしと犬の両方を心配する声を吐いた。本当に馬鹿な奴だ。あたしは無事だし、犬はもう死んでいる。
「ま、そこがあんたのあんたらしさよね」
 あたしの呟きは彼の目を更に丸くさせた。今度は驚きではなく疑問で。
「良いのよ、気にすんなって。それより、こいつも一応食糧だかんね」
 ずるりと死骸を持ち上げたあたしを見たあいつの顔は、泣き笑いのようになっていて。それを見てあたしは思わず大声を上げて笑ったのだった。


体力72→69/食糧65→66
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)

今日のS:【探索】カラオケボックスを捜索。ある部屋のドアをゆっくりと開けると・・・ソファーにじっと座りTV画面を見ているゾンビ。君は再び静かにドアを閉じた。食糧:-3

今日のB:【探索】飢えた野犬の群れを撃退。どうやらゾンビ化していないようだ。こんなものでも食糧だ・・・。3のダメージ! 食糧:+4
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #9

 酷い臭気が漂う場所だ。この辺りは特に建物の倒壊が目立つ。元々スラムのような場所なのだろうが、今回のゾンビ騒ぎでとどめを刺されたのだろう。この臭気が死体によるものなのか、それともゾンビの纏う体臭なのか、判別することさえ出来ない。
 一足先に瓦礫の山を越えたバスターが立ち止まる。あたしを振り返るので首を傾げると、彼は視線で呼び、顎で足元を指した。駆け登り見下ろせば人間の死体が二つ。傍らには食糧入りの袋。男の胸にはナイフ、女の額には銃痕。差し詰め女が男を刺したが返り討ちにされ、その後男も絶命したのだろう。

 二人を見下ろすバスターの顔は悲痛だった。体格の割に柔和な眉も顰められ、唇も震えている。
「・・・あのさ、あたしはあんたとこんな風にはならないからね」
 恐らく、あたしの放った言葉はバスターの思案と一致していたと思う。こいつがはっとした顔であたしを見たからだ。
「あたしがあんたと一緒に居るのは、戦えないあんたを護る為。あたしはあんたとは戦わないから」
 ――あたしがこんな甘いことを平然と言ってのけられるのは、バスターが「本当は弱い人間」だからだ。こいつはこの世界の誰よりも甘く、誰よりも馬鹿で、きっと誰よりも優しい。何せこいつと初めて会った時、この馬鹿はゾンビを殺せずに喰らわれようとしていたのだから。
 馬鹿な男だと思った。同時にあたしも馬鹿な女だった。あたしは一人が好きな癖に誰かを護りたがる。バスターはそんなあたしにとって格好の「お荷物」になった。こいつを護り、生き抜く。それがあたしの至上命令になり、あたしは強くなれた気でいた。

「だからね、心配要らな、」

 ――あたしには分からなかった。
 真下から跳ね上がってきた瓦礫の意味だとか、
 急にふくらはぎに走った痛みの理由だとか、
 バスターが何故あたしをそんなに真ん丸い目で見ているのか、とか。

「シェーラ!!」
 ああ、分かった。がくりと膝をつきながら視界に映る異物を認識する。地についた手が最初に掴んだ瓦礫を振り上げ、その異物に叩き下ろした。

 噛まれた。しかも――かなり不味い。普通のゾンビに噛まれてもこんなことにはならない。身体が焼けるように熱くなった後で・・・次第に熱を失う感覚になど。

 傍へ跪いたバスターから離れる。顔を覆った手がぬるりと滑る。
「シェーラ、」
「見るな! 絶対、気持ちの良いもんじゃなくなってる、あたし」
 幸いにして声帯や髪は無事そうである。体表がぐずぐずになっただけのようだ。それでも十分問題だけれど。
「・・・最悪ね」
 一瞬前まで何を豪語していたのだろう。誰が誰を護る? こんなことでは――あたしは誰も護れない。

「バスター・・・良く聞きな。あたし、今半分ゾンビになってる。何でか分かんないけど、自我はこの通りあるらしい。でも、それもこの先分かんない。
 ――だからさ、」
「おれは君と一緒に居る」

 あたしを遮った言葉に、あたしは心底揺さぶられた。・・・きっとあたしはこいつを失うのが怖かったのだ。それなのにこいつときたら、馬鹿にも程があるというものだ。
「馬っ鹿じゃないの・・・あたし本当に気持ち悪いことになってるって」
「君は、君だ。シェーラ、変わりが無い。おれは戦えないけれど、役には立たないけれど、君の傍に置いてくれ。振るえない拳の代わりに君を護らせてくれ。君の心を護らせてくれないか」
 そんな言葉と一緒にあたしを包んだ温度が温かくて、腕も伸ばせないままあたしは泣いた。

(こいつが居ないとダメだったのは、あたしの方ね)


体力74→(前回寝袋効果を付属し忘れ、+1)→75/食糧72→64
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
※歩ける寝袋:【休息】時HP+1点
※治療薬:ゾンビ化しつつある者を元に戻す/使い捨て

今日のS:【変異】突然変異したゾンビに噛まれ、君は自我持つハーフゾンビ人となった! 以後永久にゾンビ化しなくなるが【同行者】をすべて失い、新たに得ることもできない。食糧:-12

今日のバスター:【探索】食糧のそばに男女の死体を発見。食べ物を巡ってお互い争い合ったようだ・・・自分もこうなるのだろうか。食糧:+4
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ゾンサバ #8

 緩やかに風が流れていく。そうと分かるのは雲の流れが緩やかだからだ。空にぽっかり浮かんだ白い雲が、ゆっくりと上から下に流れていく。昨日今日と、あたし達は運が良い日々を送っていた。食糧庫でたんまりと物資を補給出来たし、何より一期一会の縁だと思っていた生存者と行き会えた。若い男と幼い少女の取り合わせは、大の大人二人で道中を進めるあたし達に和みを与えてくれもした。
 そして今日。朝から危うくゾンビ共の一団と鉢合わせそうになったが、寸でのところで回避出来た。これはツイているに違いない。唯一の不幸と言えば、あたしが足を挫いたことくらいだろう。お陰でこうして一人屋根の上で留守番である。少しでも見つかり難いようにと、バスターがここへ上げてくれたのだ。
 しかし一人きりというのは思った以上につまらない。最近はずっとバスターと共に行動しているから、余計に一人だと感じ入るのかも知れない。
 はあ、と溜息を吐き、ごろりと寝返りを打ったあたしの真ん前に。

 人の顔があった。

「ぎゃ!!」
 あたしとそいつは同時に同じ悲鳴を上げたらしい。綺麗にハモった声は妙にしっくり重なっていた。驚いた拍子に屋根から手を離しそうになり、落ちまいと慌てる姿に漸くあたしは我に返る。急いでそいつの腕を引っ掴み、体重ごと後ろへぐうっと引っ張る。
「おぉ、すみませ、助かりました」
「そりゃ良かったんだけどさ、吃驚させないでよ・・・」
 じとりと不満顔をするあたしに、そいつは「すいません」と頭を下げた。

 女はタムラと名乗った。このトンチキな世界に於いて、スーツ姿で居るのは中々奇妙に見える。似合ってはいるけれど。彼女もまた二人組の片割れらしい。探索に疲れたのか、見晴らし台を求めてここへ来たのだか知らないが、とにかくあたしは暇だった。
 だから誘ったのだ。話し相手にならないか、と。

「――で、思い切り床が抜けたんですよ。胸までずっぽりハマるわ、連れは居なくなるわでもう散々でしたね」
「抜けたと言えばあたしもよ、こないだマンホールから下水道に落ちてさぁ」
「それはまた難儀な」
「でっしょー?」

 だらだらと続く世間話。ネタは無いので必然的にゾンビを絡めたサバイバル生活に話題が向く。やれ何処そこで追われただの、連れがどうだの、それなりに尽きること無く話は弾んだ。・・・女同士が話す話にしては華が無いけれど、それはそれ。
 と、そこにのっそりとバスターの顔が覗いた。
「お帰り」
「ああ、ただいま」
 ちらりとバスターがタムラへ視線を向けたので、知り合ったばかりだと伝えた。彼女も「どうも」とへこり会釈をする。
 聞けば、バスターは探索の最中に大きなショッピングモールを見つけたらしい。かなり広く、また施錠されている為、中にゾンビが居る心配は無さそうだと言う。
「鍵はあるが、どうする? シェーラ」
 チャラ、と彼のぶら下げた鍵が鳴る。あたしは暫し銀色のそれを見つめ、首を振った。
「良いわ、要らない」
「ええ、便利そうなのに」
 横から口を突っ込むタムラに笑う。
「あたし、篭城戦より特攻する方が得意なんだよ」

 結局、鍵はそこに置き去りにすることに相成った。寝袋を背負ったバスターと、食糧入りのザックを背負ったあたしには、これ以上の持ち物は要らないのだ。暫しの時間を共にした彼女へ手を振ると、あちらもひらひら振り返してくれた。
「生存者に会えるのは気分が良いな」
「そーねぇ」
「・・・足は平気か?」
「ん、もう大丈夫。それよかシャワー! ベッド! あーっモーテルでもあれば良いのになぁ」
 ぐっと伸びながら言うあたしの上に、バスターの苦笑が降る。そんな彼とて、恐らくシャワーは浴びたいに違いない。もう何日もまともに綺麗にしてはいないのだから。

「あ」

 ぴたりと足を止める。釣られてバスターも立ち止まった。
「どうした?」
「あれ、あれってさ、ホテルよね」
 顎で示した先に佇むのは、寂れているとは言えホテルのはずだ。近づいて見てみたがやはりホテルだった。
「鍵掛かってるわ」
 入口には錠。一見中は綺麗である。ドアを蹴り壊し侵入してみたけれど、それでもやはり綺麗なホテル。幻想でも夢でも無く、現実の。
「やったねバスター! お湯出るかな?」
 久々のシャワーだと浮かれるあたしを追うバスターの顔は、何だか嬉しそうだった。


体力65→74(タムラタムラとの会話で+4/敬称略)/食糧78→72
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
※歩ける寝袋:【休息】時HP+1点
※治療薬:ゾンビ化しつつある者を元に戻す/使い捨て

【アイテム超過】ショッピングモールの鍵を捨てる

今日のS:【休息】安全そうなホテルを発見。今日はゾンビに襲われることもなく、ゆっくり休めそうだ・・・。HP:+5 食糧:-3

今日のB:【拠点】広大なショッピングモールの鍵(アイテム扱い、以降【探索】が出るたび、その内容が気に入らなければ「HP:-2 食糧:+1」に結果を変更可能)を発見! 食糧:-3
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ゾンサバ #7

 久し振りに空を見た気がする。すっかり明るくなってしまった蒼天を見上げ、そして深呼吸を一つ。漸く下水道から外へ出られたお陰で新鮮な空気を思い切り吸い込むことが出来る。ゾンビの蔓延る世界なのだから綺麗な空気とは言い難いが、下水の臭いに較べればずっとマシだ。首を回し、肩も回す。――よし。
「バスター、探さなきゃね」
 幸い、最近の遭遇率が嘘のように捜索中ゾンビは一匹も現れなかった。とは言え名前を呼ぶわけにはいかない。何処に奴らが隠れているか分かったものでは――、
「シェーラ!」
「・・・ないっつーのに、あの馬鹿!」
 ただでさえ巨躯は目立つのに、更に大声を出すとは。見つけたあいつへ猛ダッシュを掛け、思い切り蹴り飛ばしたのは仕方無いことだと思ってもらいたい。

「・・・何考えてんのよ、っとに・・・」
「すまん・・・」
 ぶつくさ不平を垂れるあたしに、バスターはしょんぼりと肩を落としながら謝りっぱなしだ。不平が途切れるのは、あたしが裂いたシャツでこいつの傷を縛る間だけ。片腕しか無いあたしでは、口を使う以外包帯を巻く方法が無いのだ。銜えた端と握った端を両方ぐっと引く。少し強めだが止血も兼ねているのだ、これぐらいで良いだろう。
 兎に角、無事で良かった。そう思っているのはあたしだけではない。彼の顔を見れば分かる。しかしそいつの穏やか過ぎる微笑の意味など、あたしは知らない。
「取り敢えずは進もう。安全な場所と食糧確保、はい出発!」
 あたしの号令を聞いてバスターが笑った。何が可笑しいのやら、聞いても答えてくれなかった。

 ――シェーラ、あれを。急に立ち止まったバスターがあたしの肩を叩き、ある方向を指差した。ボロい建物群が軒並み連なるその中。あいつが指したのは、レストラン。
「・・・食糧」
「あるかもな」
 行かない手は無い。あたし達には以前、貴重な食糧をダメにした前科があるのだ。幸運なことにここまで一度もゾンビと行き会ってはいない。あのレストラン内にも居ないと読むか、幸運尽きて対戦と読むか。それを決めるのは天であたし達じゃない。
 勿論、選択するのはあたし達だけれど。

 壊れた扉は、あたしが押し退けた途端に蝶番が外れ、バタンと落ちた。もわんと立ち上る土埃からして人の出入りが無かったことが窺える。
(誰も来なかったなら、手付かずってこと)
 果たして。厨房奥に「それ」はあった。厚い扉に守られ、恐らく中には溜め込まれた食糧がたんまりあるはず。だが自動で開くはずの扉は二人掛かりでもびくともしない。
「こりゃダメだわ、誰か助けが必要――」
 そう、あたしが首を振った瞬間。誰かの足音がして、同時に振り返ったバスターが叫んだ。
「おれ達は人間だ! 撃たないでくれ!」
「あ・・・あれ?」
「へ? ・・・ああっ!」
 銃を構えた男はその場でぽかんと口を開けた。あたしもバスターも同じく。そして暫しの間を置いて、あたしはそいつが誰だか気がついた。

 その男、ヘイスと言う青年は、昨日だか一昨日だか、兎に角そう遠くない過去にあたし達が行き会った男だ。と言っても互いに名乗り合ったのは今し方。
「あの時はそれどころじゃ無かったかんね。無事配給所には行けたわけ?」
「ええ、お陰様で」
 微笑を浮かべてヘイスは頭を掻いた。見た感じは普通の人間。良くも悪くも一般人である。但し、この世界を生き抜いている所為か若い割に精悍さが窺える。彼の連れは少女だった。名前は米子と言うらしい。日本人なのだそうだ。
「・・・やくそうあげる」
 あたし達の視線に構わず、その子はバスターの袖を引き、シロツメクサを渡そうとしていた。困り顔のバスターにヘイスが苦笑する。
「すみません、薬草と言って聞かなくて」
 ヘイスのジェスチャーからして、その「やくそう」は食べるものらしい。お人よしのあいつは、ありがたく受け取って食べていた。そちらへ向けていた視線をヘイスへ戻す、と、彼も感づきこちらへ顔を戻していた。
「悪いんだけどさ、これ開けるの手伝ってくんない?」
 重い扉を示す。腕は二本より四本あるに越したことは無いのだ。
「勿論、喜んで」

 結果として、扉は開いた。あたしとバスター、そしてヘイス。三人掛かりでこじ開けた。手こずった感は否めないが、骨折り損では無かったのだから良しとしよう。肩で息をするあたしたちを、米子が首を傾げて見つめている。
「米子」
 ヘイスが呼ぶ。すると少女はパタパタと彼へ駆け寄っていった。
(微笑ましい)
 血の繋がりなど無いそうだが、彼と少女は何処か似合いな気がした。いや、彼の気持ちは何と無く解る気さえする。
(守る相手が居るお陰で保つってやつよね、きっと)
 ゆらり立ち上がったバスターがあたしを引き上げ、あたしはヘイスへ手を伸べた。
「手伝いのお礼。食事作るわ、一緒してってよ」
「え、良いんですか」
「良いの良いの。それに、こいつが米子ともう少し一緒に居たいって」
 急に振られたバスターはぽかんとした顔をしていたけれど、すぐ照れて顔を逸らした。子供とこうして触れ合うのは久々だ。子供好きのこいつは米子と遊びたいはずだから。

「料理の手伝いくらい出来るよねえ? 今時、男も料理出来なきゃモテないよ!」

 そして久々の二本腕の助手だ。目一杯コキ使ってやろう。あたしの意図が読めたのか、ヘイスから溜息のような苦笑いが零れ落ちた。


体力65→65/食糧71→78(ヘイス米子の助け/敬称略)
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)

今日のS/B:【探索】食料庫発見! だが重い扉はひとりでは開きそうにない。【同行者】を連れているかフォロワーの助けを得られるなら食糧+7。さもなくば無駄骨に終わって食糧-3。
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ゾンサバ #6

 ――すっとりと下へ落ちて助かった。落下の衝撃に痺れる足を無理矢理引き摺りながら、あたしは上を見上げて思った。ここは下水らしい。となればあたしはマンホールを踏み抜いたのだろう。いや、元々に蓋が無く、上にがらくたが乗っていたせいで道に見えていたのか。幸い、落ちたあたしに気づいたゾンビは居らず、追ってはこないようだった。未だ追われるバスターが心配だが、今は自分の心配が先だ。

 暗い下水道、鼠の声がする中を手探りで進む。すると水音以外の音が聞こえた。
「・・・・・・」
(泣き声・・・?)
 中で反響するせいで判り辛いが、確かに人のすすり泣きだ。
「誰か居る?」
 呼び掛けに声はぴたりと止んでしまった。けれど直ぐ、「だれ?」と問う声が返ってきた。
「あたしはシェーラ。喋ってて、今そっち行くから」
「ぼく・・・ぼく、マイケル。横穴に居るよ、隠れてるの。こっちだよ」
 反響を追って目を向けると、暗がりの中に揺れるものが見えた。あれがマイケルの居場所だろう。目印にと白い野球帽を振ってくれているようだ。

 少年はここへ逃げ込んでもう一週間、ずっと隠れていると言う。
「リュックにいっぱいご飯があったんだ。けどもう少ししか無い。・・・ぼく、外に出るの恐いよ」
 膝を抱えて震える姿があたしの胸を叩く。心細いに決まっている。大の大人だって――あたしだって、恐いのだ。
「じゃ、あたしの食糧分けてあげるよ」
 本当? そう聞き返したマイケルの顔に弟が重なって、思わず抱き締めそうになったけれど、代わりに笑って頷いた。
「じゃあ・・・お姉ちゃんにこれあげる」
「何これ」
「お守り。綺麗だから拾ったんだけど、お礼にね。お姉ちゃんが無事でありますようにって」
 受け取れないと言ったあたしを振り切り、マイケルはそれをあたしの右手に押し込んでしまった。こうなると受け取らないわけにはいかない。
「ありがと、マイケル」
 握り締めた鍵の冷たい感触を携えて立ち上がる。
 ――バスターを探さなければ。

 ・・・シェーラ。小さく呼び掛けるが返事は無い。完全に逸れてしまったようだ。狭い路地でよもやと思ったが、忽然と消えてしまった彼女を探す前にゾンビ共を振り切らないとならなかった。そして漸く今、あの集団を振り切ったところである。しつこさだけはぴかいちだったせいで時間を喰ってしまった。
 彼女の行方に関する手掛かりは無い。が、取り敢えず下だろうと思う。あの状況で消えるとすれば、落ちたくらいしか考えられない。ならば地下室か、下水。入り口が何処かにあるはずだ。地面を見つめてうろうろしていたが、ある一点で視線が止まる。
 少女が倒れていた。白いワンピースを着たブロンドの子。まだ綺麗な身体は生者の証に見えた。だから駆け寄った。違和感など覚えなかった。――助け起こしてみるまでは。

 どろりと眼窩に溜まった眼球。こけて削げた頬。ああ・・・、
「しまった・・・!」
 振り払う手を掻い潜り少女が腕にかぶりつく。腐った死体の癖に力だけは恐ろしく強いのだ。噛まれた所が裂け、血が溢れる。

 殴り飛ばせ。引き剥がして頭を潰せ。

 頭の中で声がわんわんと唸る。
(できない、したくない、いやだ!)
 痛みよりも恐怖で泣きたくなった。俺に命令する声は、上官の声だ。絶対だ命令だと責め立てる声だ。
「おれはもうそんなことは嫌だ!」
 思い切り腕を振るう。反動に負け喰らいついていた少女が吹き飛ばされ、壁に当たってもんどり打つ。その隙に駆け出した。

(シェーラ、シェーラ、ああどこに居る!?)
 戦うことを辞めた右腕の欠如が、胸に重くつかえていた。


体力70→65/食糧76→71
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)

今日のS:【探索】銀色の「鍵」をお守りにしている少年と遭遇。食糧4と交換してくれる(アイテムではないクリアフラグBを得る)。強引に奪う? なら2ダメージで君のものだ。

今日のB:【戦闘】行き倒れた少女を発見。だが、それはゾンビだった! 油断し、5のダメージ!(この戦闘はアイテムの効果を受けられない) 食糧:-1
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