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夢を見ましょう

インクに浸したペン先で、そっと、静かに。

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ゾンサバ #10

 ――昨日のアレを無かったことにしたい。
 一人繁華街の成れの果てを歩きながら、朝から断続的に込み上がる何度目かの思い出し何とやらに頭を抱える。本当に情けない姿を見せたものだと思う。思いもかけない事態で混乱していたとは言え、あれはあまりにも酷い醜態だった。出来ることなら、バスターの頭をかち割ってあの記憶だけ抜き取ってやりたいくらいだ。
(後、あたしの中の記憶も抜きたいわ)
 羞恥で人が死ななくて本当に良かった。若しそれが死因になり得るならあたしはとっくに死んでいる。
(・・・この身体で死ねるのかは知らないけど、ね)
 この身体。半分死人とと化した身体。姿は似ているがどうやら完全にゾンビとなったわけではなく、所謂半死人とでも言うべき身体になっているらしい。意識はしっかりしたままだから脳は無事なのだろう。多少腐臭はするものの、髪や目、鼻は溶けずに残っている。
 ・・・但し、爪は腐り落ちてしまった。

 しかし、案外ゾンビは仲間を嗅ぎ分けるのに長けているらしく、この姿をしていようが問答無用で襲い掛かってくるのだった。脳味噌と肉が残っているのがいけないのだろうか。
 そんなことを考えながら、あたしは一軒の建物に足を向ける。比較的綺麗な(とは言えかなり汚い。単に倒壊を免れているだけの)ビルだ。入口に掲げられている看板の電球は虚しく割れ、かつてのネオンの面影も無い。
 カラオケボックス。無論歌を歌いに来たわけではない。防音性の高い部屋ならば、多少の物音に気を遣わず寝泊まり出来ると思ったのだ。窓が無くドアのみが出入口な所が難点だが。
 キ、と手近なドアを開けたあたしは――そっとそれを閉めた。
 ソファーに座り込みテレビ画面を、恐らくこの建物が襲われた時から点いているのであろう、宣伝を延々と流すテレビを見つめているゾンビが居たからだ。ゾンビもテレビ見るのね。思わずあたしは口からそう漏らしていた。
 電気が通う建物は貴重だが、無用な争いは避けるべきだ。後何匹隠れているか分かったものではないのだし。

 そうして実入りの無いままバスターとの合流地点へ向かうあたしの耳に、ボウボウと低い音が飛び込んできた。それと重なるように聞き慣れた声もする。
「向こうへ行け、これはやれないんだ!」
 バスターだ。酷く焦った声。引っ切り無しに鳴る低音の主が何か分からず、あたしは建物の陰からそっと様子を窺った。
 ・・・何のことは無い。あいつは野犬の群れを追い払おうとしていただけだ。さっきのボウボウ言う音は野犬の吠え声だったわけである。馬鹿なあいつは犬でさえ殺せない。仕方無くあたしは陰から飛び出し、彼の元までひた走った。そのままの勢いをつけ、野犬の中へ飛び込む形で踏み切る。跳躍した身体は地に着地した瞬間にずくんと疼いた。振動が腐肉を揺らす感覚が気持ち悪い。
 けれどお陰で、踏み潰した犬の頭の感触をまざまざと感じなくて済んだ。一頭がやられた所為で群れは散り散りに逃げ去っていく。

 ぎょっと目を剥いたバスターが、あたしと犬の両方を心配する声を吐いた。本当に馬鹿な奴だ。あたしは無事だし、犬はもう死んでいる。
「ま、そこがあんたのあんたらしさよね」
 あたしの呟きは彼の目を更に丸くさせた。今度は驚きではなく疑問で。
「良いのよ、気にすんなって。それより、こいつも一応食糧だかんね」
 ずるりと死骸を持ち上げたあたしを見たあいつの顔は、泣き笑いのようになっていて。それを見てあたしは思わず大声を上げて笑ったのだった。


体力72→69/食糧65→66
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)

今日のS:【探索】カラオケボックスを捜索。ある部屋のドアをゆっくりと開けると・・・ソファーにじっと座りTV画面を見ているゾンビ。君は再び静かにドアを閉じた。食糧:-3

今日のB:【探索】飢えた野犬の群れを撃退。どうやらゾンビ化していないようだ。こんなものでも食糧だ・・・。3のダメージ! 食糧:+4
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #9

 酷い臭気が漂う場所だ。この辺りは特に建物の倒壊が目立つ。元々スラムのような場所なのだろうが、今回のゾンビ騒ぎでとどめを刺されたのだろう。この臭気が死体によるものなのか、それともゾンビの纏う体臭なのか、判別することさえ出来ない。
 一足先に瓦礫の山を越えたバスターが立ち止まる。あたしを振り返るので首を傾げると、彼は視線で呼び、顎で足元を指した。駆け登り見下ろせば人間の死体が二つ。傍らには食糧入りの袋。男の胸にはナイフ、女の額には銃痕。差し詰め女が男を刺したが返り討ちにされ、その後男も絶命したのだろう。

 二人を見下ろすバスターの顔は悲痛だった。体格の割に柔和な眉も顰められ、唇も震えている。
「・・・あのさ、あたしはあんたとこんな風にはならないからね」
 恐らく、あたしの放った言葉はバスターの思案と一致していたと思う。こいつがはっとした顔であたしを見たからだ。
「あたしがあんたと一緒に居るのは、戦えないあんたを護る為。あたしはあんたとは戦わないから」
 ――あたしがこんな甘いことを平然と言ってのけられるのは、バスターが「本当は弱い人間」だからだ。こいつはこの世界の誰よりも甘く、誰よりも馬鹿で、きっと誰よりも優しい。何せこいつと初めて会った時、この馬鹿はゾンビを殺せずに喰らわれようとしていたのだから。
 馬鹿な男だと思った。同時にあたしも馬鹿な女だった。あたしは一人が好きな癖に誰かを護りたがる。バスターはそんなあたしにとって格好の「お荷物」になった。こいつを護り、生き抜く。それがあたしの至上命令になり、あたしは強くなれた気でいた。

「だからね、心配要らな、」

 ――あたしには分からなかった。
 真下から跳ね上がってきた瓦礫の意味だとか、
 急にふくらはぎに走った痛みの理由だとか、
 バスターが何故あたしをそんなに真ん丸い目で見ているのか、とか。

「シェーラ!!」
 ああ、分かった。がくりと膝をつきながら視界に映る異物を認識する。地についた手が最初に掴んだ瓦礫を振り上げ、その異物に叩き下ろした。

 噛まれた。しかも――かなり不味い。普通のゾンビに噛まれてもこんなことにはならない。身体が焼けるように熱くなった後で・・・次第に熱を失う感覚になど。

 傍へ跪いたバスターから離れる。顔を覆った手がぬるりと滑る。
「シェーラ、」
「見るな! 絶対、気持ちの良いもんじゃなくなってる、あたし」
 幸いにして声帯や髪は無事そうである。体表がぐずぐずになっただけのようだ。それでも十分問題だけれど。
「・・・最悪ね」
 一瞬前まで何を豪語していたのだろう。誰が誰を護る? こんなことでは――あたしは誰も護れない。

「バスター・・・良く聞きな。あたし、今半分ゾンビになってる。何でか分かんないけど、自我はこの通りあるらしい。でも、それもこの先分かんない。
 ――だからさ、」
「おれは君と一緒に居る」

 あたしを遮った言葉に、あたしは心底揺さぶられた。・・・きっとあたしはこいつを失うのが怖かったのだ。それなのにこいつときたら、馬鹿にも程があるというものだ。
「馬っ鹿じゃないの・・・あたし本当に気持ち悪いことになってるって」
「君は、君だ。シェーラ、変わりが無い。おれは戦えないけれど、役には立たないけれど、君の傍に置いてくれ。振るえない拳の代わりに君を護らせてくれ。君の心を護らせてくれないか」
 そんな言葉と一緒にあたしを包んだ温度が温かくて、腕も伸ばせないままあたしは泣いた。

(こいつが居ないとダメだったのは、あたしの方ね)


体力74→(前回寝袋効果を付属し忘れ、+1)→75/食糧72→64
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
※歩ける寝袋:【休息】時HP+1点
※治療薬:ゾンビ化しつつある者を元に戻す/使い捨て

今日のS:【変異】突然変異したゾンビに噛まれ、君は自我持つハーフゾンビ人となった! 以後永久にゾンビ化しなくなるが【同行者】をすべて失い、新たに得ることもできない。食糧:-12

今日のバスター:【探索】食糧のそばに男女の死体を発見。食べ物を巡ってお互い争い合ったようだ・・・自分もこうなるのだろうか。食糧:+4
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #8

 緩やかに風が流れていく。そうと分かるのは雲の流れが緩やかだからだ。空にぽっかり浮かんだ白い雲が、ゆっくりと上から下に流れていく。昨日今日と、あたし達は運が良い日々を送っていた。食糧庫でたんまりと物資を補給出来たし、何より一期一会の縁だと思っていた生存者と行き会えた。若い男と幼い少女の取り合わせは、大の大人二人で道中を進めるあたし達に和みを与えてくれもした。
 そして今日。朝から危うくゾンビ共の一団と鉢合わせそうになったが、寸でのところで回避出来た。これはツイているに違いない。唯一の不幸と言えば、あたしが足を挫いたことくらいだろう。お陰でこうして一人屋根の上で留守番である。少しでも見つかり難いようにと、バスターがここへ上げてくれたのだ。
 しかし一人きりというのは思った以上につまらない。最近はずっとバスターと共に行動しているから、余計に一人だと感じ入るのかも知れない。
 はあ、と溜息を吐き、ごろりと寝返りを打ったあたしの真ん前に。

 人の顔があった。

「ぎゃ!!」
 あたしとそいつは同時に同じ悲鳴を上げたらしい。綺麗にハモった声は妙にしっくり重なっていた。驚いた拍子に屋根から手を離しそうになり、落ちまいと慌てる姿に漸くあたしは我に返る。急いでそいつの腕を引っ掴み、体重ごと後ろへぐうっと引っ張る。
「おぉ、すみませ、助かりました」
「そりゃ良かったんだけどさ、吃驚させないでよ・・・」
 じとりと不満顔をするあたしに、そいつは「すいません」と頭を下げた。

 女はタムラと名乗った。このトンチキな世界に於いて、スーツ姿で居るのは中々奇妙に見える。似合ってはいるけれど。彼女もまた二人組の片割れらしい。探索に疲れたのか、見晴らし台を求めてここへ来たのだか知らないが、とにかくあたしは暇だった。
 だから誘ったのだ。話し相手にならないか、と。

「――で、思い切り床が抜けたんですよ。胸までずっぽりハマるわ、連れは居なくなるわでもう散々でしたね」
「抜けたと言えばあたしもよ、こないだマンホールから下水道に落ちてさぁ」
「それはまた難儀な」
「でっしょー?」

 だらだらと続く世間話。ネタは無いので必然的にゾンビを絡めたサバイバル生活に話題が向く。やれ何処そこで追われただの、連れがどうだの、それなりに尽きること無く話は弾んだ。・・・女同士が話す話にしては華が無いけれど、それはそれ。
 と、そこにのっそりとバスターの顔が覗いた。
「お帰り」
「ああ、ただいま」
 ちらりとバスターがタムラへ視線を向けたので、知り合ったばかりだと伝えた。彼女も「どうも」とへこり会釈をする。
 聞けば、バスターは探索の最中に大きなショッピングモールを見つけたらしい。かなり広く、また施錠されている為、中にゾンビが居る心配は無さそうだと言う。
「鍵はあるが、どうする? シェーラ」
 チャラ、と彼のぶら下げた鍵が鳴る。あたしは暫し銀色のそれを見つめ、首を振った。
「良いわ、要らない」
「ええ、便利そうなのに」
 横から口を突っ込むタムラに笑う。
「あたし、篭城戦より特攻する方が得意なんだよ」

 結局、鍵はそこに置き去りにすることに相成った。寝袋を背負ったバスターと、食糧入りのザックを背負ったあたしには、これ以上の持ち物は要らないのだ。暫しの時間を共にした彼女へ手を振ると、あちらもひらひら振り返してくれた。
「生存者に会えるのは気分が良いな」
「そーねぇ」
「・・・足は平気か?」
「ん、もう大丈夫。それよかシャワー! ベッド! あーっモーテルでもあれば良いのになぁ」
 ぐっと伸びながら言うあたしの上に、バスターの苦笑が降る。そんな彼とて、恐らくシャワーは浴びたいに違いない。もう何日もまともに綺麗にしてはいないのだから。

「あ」

 ぴたりと足を止める。釣られてバスターも立ち止まった。
「どうした?」
「あれ、あれってさ、ホテルよね」
 顎で示した先に佇むのは、寂れているとは言えホテルのはずだ。近づいて見てみたがやはりホテルだった。
「鍵掛かってるわ」
 入口には錠。一見中は綺麗である。ドアを蹴り壊し侵入してみたけれど、それでもやはり綺麗なホテル。幻想でも夢でも無く、現実の。
「やったねバスター! お湯出るかな?」
 久々のシャワーだと浮かれるあたしを追うバスターの顔は、何だか嬉しそうだった。


体力65→74(タムラタムラとの会話で+4/敬称略)/食糧78→72
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)
※歩ける寝袋:【休息】時HP+1点
※治療薬:ゾンビ化しつつある者を元に戻す/使い捨て

【アイテム超過】ショッピングモールの鍵を捨てる

今日のS:【休息】安全そうなホテルを発見。今日はゾンビに襲われることもなく、ゆっくり休めそうだ・・・。HP:+5 食糧:-3

今日のB:【拠点】広大なショッピングモールの鍵(アイテム扱い、以降【探索】が出るたび、その内容が気に入らなければ「HP:-2 食糧:+1」に結果を変更可能)を発見! 食糧:-3
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #7

 久し振りに空を見た気がする。すっかり明るくなってしまった蒼天を見上げ、そして深呼吸を一つ。漸く下水道から外へ出られたお陰で新鮮な空気を思い切り吸い込むことが出来る。ゾンビの蔓延る世界なのだから綺麗な空気とは言い難いが、下水の臭いに較べればずっとマシだ。首を回し、肩も回す。――よし。
「バスター、探さなきゃね」
 幸い、最近の遭遇率が嘘のように捜索中ゾンビは一匹も現れなかった。とは言え名前を呼ぶわけにはいかない。何処に奴らが隠れているか分かったものでは――、
「シェーラ!」
「・・・ないっつーのに、あの馬鹿!」
 ただでさえ巨躯は目立つのに、更に大声を出すとは。見つけたあいつへ猛ダッシュを掛け、思い切り蹴り飛ばしたのは仕方無いことだと思ってもらいたい。

「・・・何考えてんのよ、っとに・・・」
「すまん・・・」
 ぶつくさ不平を垂れるあたしに、バスターはしょんぼりと肩を落としながら謝りっぱなしだ。不平が途切れるのは、あたしが裂いたシャツでこいつの傷を縛る間だけ。片腕しか無いあたしでは、口を使う以外包帯を巻く方法が無いのだ。銜えた端と握った端を両方ぐっと引く。少し強めだが止血も兼ねているのだ、これぐらいで良いだろう。
 兎に角、無事で良かった。そう思っているのはあたしだけではない。彼の顔を見れば分かる。しかしそいつの穏やか過ぎる微笑の意味など、あたしは知らない。
「取り敢えずは進もう。安全な場所と食糧確保、はい出発!」
 あたしの号令を聞いてバスターが笑った。何が可笑しいのやら、聞いても答えてくれなかった。

 ――シェーラ、あれを。急に立ち止まったバスターがあたしの肩を叩き、ある方向を指差した。ボロい建物群が軒並み連なるその中。あいつが指したのは、レストラン。
「・・・食糧」
「あるかもな」
 行かない手は無い。あたし達には以前、貴重な食糧をダメにした前科があるのだ。幸運なことにここまで一度もゾンビと行き会ってはいない。あのレストラン内にも居ないと読むか、幸運尽きて対戦と読むか。それを決めるのは天であたし達じゃない。
 勿論、選択するのはあたし達だけれど。

 壊れた扉は、あたしが押し退けた途端に蝶番が外れ、バタンと落ちた。もわんと立ち上る土埃からして人の出入りが無かったことが窺える。
(誰も来なかったなら、手付かずってこと)
 果たして。厨房奥に「それ」はあった。厚い扉に守られ、恐らく中には溜め込まれた食糧がたんまりあるはず。だが自動で開くはずの扉は二人掛かりでもびくともしない。
「こりゃダメだわ、誰か助けが必要――」
 そう、あたしが首を振った瞬間。誰かの足音がして、同時に振り返ったバスターが叫んだ。
「おれ達は人間だ! 撃たないでくれ!」
「あ・・・あれ?」
「へ? ・・・ああっ!」
 銃を構えた男はその場でぽかんと口を開けた。あたしもバスターも同じく。そして暫しの間を置いて、あたしはそいつが誰だか気がついた。

 その男、ヘイスと言う青年は、昨日だか一昨日だか、兎に角そう遠くない過去にあたし達が行き会った男だ。と言っても互いに名乗り合ったのは今し方。
「あの時はそれどころじゃ無かったかんね。無事配給所には行けたわけ?」
「ええ、お陰様で」
 微笑を浮かべてヘイスは頭を掻いた。見た感じは普通の人間。良くも悪くも一般人である。但し、この世界を生き抜いている所為か若い割に精悍さが窺える。彼の連れは少女だった。名前は米子と言うらしい。日本人なのだそうだ。
「・・・やくそうあげる」
 あたし達の視線に構わず、その子はバスターの袖を引き、シロツメクサを渡そうとしていた。困り顔のバスターにヘイスが苦笑する。
「すみません、薬草と言って聞かなくて」
 ヘイスのジェスチャーからして、その「やくそう」は食べるものらしい。お人よしのあいつは、ありがたく受け取って食べていた。そちらへ向けていた視線をヘイスへ戻す、と、彼も感づきこちらへ顔を戻していた。
「悪いんだけどさ、これ開けるの手伝ってくんない?」
 重い扉を示す。腕は二本より四本あるに越したことは無いのだ。
「勿論、喜んで」

 結果として、扉は開いた。あたしとバスター、そしてヘイス。三人掛かりでこじ開けた。手こずった感は否めないが、骨折り損では無かったのだから良しとしよう。肩で息をするあたしたちを、米子が首を傾げて見つめている。
「米子」
 ヘイスが呼ぶ。すると少女はパタパタと彼へ駆け寄っていった。
(微笑ましい)
 血の繋がりなど無いそうだが、彼と少女は何処か似合いな気がした。いや、彼の気持ちは何と無く解る気さえする。
(守る相手が居るお陰で保つってやつよね、きっと)
 ゆらり立ち上がったバスターがあたしを引き上げ、あたしはヘイスへ手を伸べた。
「手伝いのお礼。食事作るわ、一緒してってよ」
「え、良いんですか」
「良いの良いの。それに、こいつが米子ともう少し一緒に居たいって」
 急に振られたバスターはぽかんとした顔をしていたけれど、すぐ照れて顔を逸らした。子供とこうして触れ合うのは久々だ。子供好きのこいつは米子と遊びたいはずだから。

「料理の手伝いくらい出来るよねえ? 今時、男も料理出来なきゃモテないよ!」

 そして久々の二本腕の助手だ。目一杯コキ使ってやろう。あたしの意図が読めたのか、ヘイスから溜息のような苦笑いが零れ落ちた。


体力65→65/食糧71→78(ヘイス米子の助け/敬称略)
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)

今日のS/B:【探索】食料庫発見! だが重い扉はひとりでは開きそうにない。【同行者】を連れているかフォロワーの助けを得られるなら食糧+7。さもなくば無駄骨に終わって食糧-3。
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #6

 ――すっとりと下へ落ちて助かった。落下の衝撃に痺れる足を無理矢理引き摺りながら、あたしは上を見上げて思った。ここは下水らしい。となればあたしはマンホールを踏み抜いたのだろう。いや、元々に蓋が無く、上にがらくたが乗っていたせいで道に見えていたのか。幸い、落ちたあたしに気づいたゾンビは居らず、追ってはこないようだった。未だ追われるバスターが心配だが、今は自分の心配が先だ。

 暗い下水道、鼠の声がする中を手探りで進む。すると水音以外の音が聞こえた。
「・・・・・・」
(泣き声・・・?)
 中で反響するせいで判り辛いが、確かに人のすすり泣きだ。
「誰か居る?」
 呼び掛けに声はぴたりと止んでしまった。けれど直ぐ、「だれ?」と問う声が返ってきた。
「あたしはシェーラ。喋ってて、今そっち行くから」
「ぼく・・・ぼく、マイケル。横穴に居るよ、隠れてるの。こっちだよ」
 反響を追って目を向けると、暗がりの中に揺れるものが見えた。あれがマイケルの居場所だろう。目印にと白い野球帽を振ってくれているようだ。

 少年はここへ逃げ込んでもう一週間、ずっと隠れていると言う。
「リュックにいっぱいご飯があったんだ。けどもう少ししか無い。・・・ぼく、外に出るの恐いよ」
 膝を抱えて震える姿があたしの胸を叩く。心細いに決まっている。大の大人だって――あたしだって、恐いのだ。
「じゃ、あたしの食糧分けてあげるよ」
 本当? そう聞き返したマイケルの顔に弟が重なって、思わず抱き締めそうになったけれど、代わりに笑って頷いた。
「じゃあ・・・お姉ちゃんにこれあげる」
「何これ」
「お守り。綺麗だから拾ったんだけど、お礼にね。お姉ちゃんが無事でありますようにって」
 受け取れないと言ったあたしを振り切り、マイケルはそれをあたしの右手に押し込んでしまった。こうなると受け取らないわけにはいかない。
「ありがと、マイケル」
 握り締めた鍵の冷たい感触を携えて立ち上がる。
 ――バスターを探さなければ。

 ・・・シェーラ。小さく呼び掛けるが返事は無い。完全に逸れてしまったようだ。狭い路地でよもやと思ったが、忽然と消えてしまった彼女を探す前にゾンビ共を振り切らないとならなかった。そして漸く今、あの集団を振り切ったところである。しつこさだけはぴかいちだったせいで時間を喰ってしまった。
 彼女の行方に関する手掛かりは無い。が、取り敢えず下だろうと思う。あの状況で消えるとすれば、落ちたくらいしか考えられない。ならば地下室か、下水。入り口が何処かにあるはずだ。地面を見つめてうろうろしていたが、ある一点で視線が止まる。
 少女が倒れていた。白いワンピースを着たブロンドの子。まだ綺麗な身体は生者の証に見えた。だから駆け寄った。違和感など覚えなかった。――助け起こしてみるまでは。

 どろりと眼窩に溜まった眼球。こけて削げた頬。ああ・・・、
「しまった・・・!」
 振り払う手を掻い潜り少女が腕にかぶりつく。腐った死体の癖に力だけは恐ろしく強いのだ。噛まれた所が裂け、血が溢れる。

 殴り飛ばせ。引き剥がして頭を潰せ。

 頭の中で声がわんわんと唸る。
(できない、したくない、いやだ!)
 痛みよりも恐怖で泣きたくなった。俺に命令する声は、上官の声だ。絶対だ命令だと責め立てる声だ。
「おれはもうそんなことは嫌だ!」
 思い切り腕を振るう。反動に負け喰らいついていた少女が吹き飛ばされ、壁に当たってもんどり打つ。その隙に駆け出した。

(シェーラ、シェーラ、ああどこに居る!?)
 戦うことを辞めた右腕の欠如が、胸に重くつかえていた。


体力70→65/食糧76→71
アイテム:治療薬、寝袋/銀色の鍵(フラグB)

今日のS:【探索】銀色の「鍵」をお守りにしている少年と遭遇。食糧4と交換してくれる(アイテムではないクリアフラグBを得る)。強引に奪う? なら2ダメージで君のものだ。

今日のB:【戦闘】行き倒れた少女を発見。だが、それはゾンビだった! 油断し、5のダメージ!(この戦闘はアイテムの効果を受けられない) 食糧:-1
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ゾンサバ #5

 コン、と小石を放る。あたしはさっきからそうして、手近にある何かを摘んでは放りを繰り返していた。
(眠れないもの)
 目を閉じるのが恐いから。

 弟は、あたしより三つ下だ。あちこちふらつく根無し草のあたしと違い、あいつはしっかり者で良い子。実家に残り、父親の世話をしながらデザイナーの仕事をやっている。時折街頭であいつの手掛けた広告を見たりすると、妙にくすぐったい気分になった。道行く奴を捕まえて、あれはあたしの弟が作ったんだと言いたくなった。
 ・・・ふと、弟のことを現在進行形で考えているのに気づいて舌打ちをする。馬鹿な姉だ。あの子はもう居ないのに。
(逃げたらいけなかったんだ。あいつを置いていっちゃった)
 そう思ったけれど、あたしを逃がそうとしたバスターを恨む気にはなれなかった。きっと彼は恨んで良いと思っていることだろう。あいつは優しくて馬鹿なのだ。

 キィ、と扉が軋んだ。一瞬緊張が走ったがすぐに収まる。バスターだ。
「合言葉言いなよ」
「あ、すまん、忘れていた」
 ほら、やっぱり馬鹿なのだ。緊張して損をしたとふて腐れたあたしに、彼が手渡したのはカロリーメイトだった。
「ドラッグストアに残っていた。食べたら眠ろう」
「・・・そうね」
 この辺りにゾンビの影は無かった。今まで追い回されっぱなしだったお陰でくたくたの身体は、眠りたくない気持ちに反して瞼を塞ぐ。それに今は、背中に一つ温もりがある。背中合わせに感じるバスターの体温が余計に眠りを誘った。
 ゆるりと瞼が落ちた。

 ――姉さん!

 夢が破裂した。一気に覚醒した身体が腐臭を嗅ぎ取る。唸り声と足音を聞き取る。
「バスター!」
 飛び起きて彼を蹴り飛ばす。一瞬寝惚けた顔をしたこいつも、あたしと同じ異変にすぐ気づいた。がばっと身を起こし、ザックを引っ掴む。
「逃げよう」
「オッケー!」
 この辺りは路地が入り組んでいる。逃げるのに最適だからと選んだ塒なのだ。追いつかれるはずが無い。
「とは言っても・・・囲まれる程寝入ってしまうとはな」
「仕方ないんじゃない? 最近ゾンビとエンカウントばっかだもん、疲れてんのよ」
 確かに、と応えたバスターが笑っている。こんな状況で笑えるのが何だか幸せに感じた。

 ざふん。

 踏み込んだ足下で妙な音。そして浮遊感。
「へ?」
 スローモーションで視界が下方へ平行移動していくのを理解出来ない。けれどそこからは速かった。――あたしは、下へ落ちたのだ。


体力80→70/食糧81→76
アイテム:治療薬、寝袋

今日のS:【ACD】まだ大丈夫、自分は運が良い・・・そんな余裕が命取り! 就寝中ゾンビの接近を許してしまう! HP90以上なら20(さもなくば10)のダメージ! 食糧:-2

今日のB:【ACD】狭く細い道を逃げる途中、仲間とはぐれる。今回と次回は、【同行者】の効果とフォロワーの助けを受けられない。なに、元々一人? ならば問題ない。食糧:-3
http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #4

 これは失策だった。猛スピードで瓦礫だらけの廊下を駆け抜けながら舌打ち――しようとしたが、口を開けると反動で舌を噛みそうになるので堪えた。角を曲がる。見つけたドアのノブを回すが動かない。蹴りつけても手応えが薄くて開く気配は無い。
「ボロボロの癖に、こういうとこだけ頑丈っ!」
 悪態を吐いたあたしの腕を掴み、バスターが走り出した。左手に右手を引っ張られているのはやたら走り難く、振り解いて駆ける。
「一人で平気」
「ああ、知っている」
「・・・あいつら足は遅いけど、しつこいね」
 先程曲がった角からぞろぞろとゾンビが溢れ出してきている。何を投げつけても追いかけてくるから堪ったものじゃない。

 ――待って。
 コンクリの塊を振りかぶった手を、止めた。
 嘘。脳味噌が否定を吐いた。けれど目が、理性が、「それ」を現実だと認めている。
 ゾンビ共の戦闘で蠢いているあの物体。あれは・・・あれは、とても見覚えのある姿をしているのではないか?

「ロ、ビ、ン・・・?」

 ――姉さん、こっちは無事だよ、今のとこ。父さんと避難するから、この留守電聞いたら連絡して。
(うそ、うそよ、こないだまでちゃんとあいつ――)
 口から飛び出しそうになる狼狽を噛み殺し、あたしは手の中の塊を握り締め直した。

(あたまを、ねらえば、××××。)

「シェーラ!」
 急に視界が揺れた。バスターがあたしを抱えて走り出したのだと気づいた。制止する間ももがく暇も無く、彼は窓をぶち破って隣家の屋根へ転がり落ちる。
「馬鹿、戻って!」
「出来ない」
 そう言ったこいつの頬に思い切り拳をぶち込んだ。バスターは何も言わずに血の混じった唾を吐き出し、あたしに視線を戻す。
「同情ならいらない!」
「違う」
 バスターはそれっきり黙ってしまった。無言で道の先を指す。逃げようの合図だ。

 あたし、分かっていた。今、弟を殺したらきっと壊れてしまうってこと。
 バスター、あんた、あたしを護りたかったって言うの?
 ・・・まさかね。


体力90→80/食糧86→81
アイテム:治療薬、寝袋

今日のS:【戦闘】なんということだ・・・見知った顔がゾンビになっている! 戦って安らかな眠りを与えるなら8のダメージ。戦いを避けて逃げるなら6のダメージ。食糧:-2

今日のB:【戦闘】足の遅いゾンビが襲ってきた! だが、攻撃してもその歩みはなかなか止まらない! じわじわと追い詰められる! 4のダメージ! 食糧:-3
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ゾンサバ #3

「これ、豆の味じゃないよね」
 あたしの目の前で、スプーンからぽたぽた垂れ落ちるスープ。そしてその中に浮かぶ豆。ひよこ豆とか言う名前だ。だが今問題なのは豆の名前ではない。バスターは首を傾げ、あたしの缶から一口掬ってスープを飲んだ。途端彼の眉が顰められ、ぺっと傍らにスープが唾ごと吐き捨てられる。
「腐っている」
「やっぱ? 他のもヤバいかも」

 結局、持っていた食糧の一割はダメになっていたらしい。この間から暑い日が続いていたからか。所詮は拾い物、缶自体に傷がついていたりしてそこから傷んでしまったようだった。残った無事な食糧さえ、またいつダメになってしまうか。定期的に中身を点検しないとダメね、とあたしが伸びをした瞬間。

 ゴッ。

 重い音が耳元を掠めて、あたしの前方で地に弾んだ。弾け飛んだ石と刔れた地面。続けざまにヒュン、ヒュンと飛来する音を聞き、食糧を掻っ込んで袋の口を縛った。
「行くよ、バスターッ!」
 ゾンビが投石をしてくるなんて初めてだ。道具を使えるほどの頭を残しているのか。振り向いて確かめたところ、後方の建物の屋根に人影が見えた。一匹が指示を飛ばし、他の奴らが石を投げてくる。どうやら手投以外にパチンコのようなものを使っているのが窺えた。
(ゾンビのくせに生意気な奴!)
 とは言え、下方のあたし達は段違いに不利だ。三十六計逃げるに如かず。飛び散る石の破片を無視して走り抜ける。

 急に、あたしの後ろでバスターの体が傾いだ。振り返る暇が無かったからそのまま走り続けたけれど。――射程範囲外まで逃げて、彼の背中を確認したら、裂けて血が溢れていた。
「ちょっと、やだ」
「大丈夫」
「どこが!」
 バスターのシャツを破り裂いて止血しながら、あたしはその背に額をつけた。
「・・・守ってあげらんなくて、ごめんね」


体力95→90/食糧97→86
アイテム:治療薬、寝袋

今日のS:【ACD】食事に妙な味。食糧が一部痛んでいた! ゾンビの悪臭に満ちた世界だ、気付きにくいのも無理はない。「現在食糧の1割」点の食糧を失う(端数切り捨て)。

今日のB:【戦闘】厄介なことに、知性を残したゾンビが投石で遠距離から襲ってくる! 5のダメージ!(この戦闘ではバット、日本刀、チェーンソーの効果を受けられない) 食糧:-2 http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #2

 街は廃墟。何時まで、何処まで歩いても終わりが見えない。今日は暑いから陽炎が立って余計に先が長く見える。
「バスター、平気?」
 振り返ると、頭があたしの上でこっくりと揺れていた。声に出す気力は無いらしい。あたしよりお天道様に近いから堪えるんだろうか。
 じりじり焼けるコンクリートを避け、木陰の多い公園を選んだ。ゾンビ共の奇襲は怖いけれど、あのままだと二人共目玉焼きになりそうだったし仕方が無い。

「おい」

 突然、木の上から声がした。あたしは勿論、バスターも一瞬で飛び退がって身構えた。しかし声はしっかりとあたし達を呼んだ。「お二人さん」と。
「何さ、同志か。吃驚させないでっての」
「すまんね、ここで隠れてんだ。近くに居るから気をつけな。・・・なあ、あんたらに頼みがあるんだが、聞いてくれるかい?」
 男は食糧と武器を交換したかったようだ。けれど生憎あたし達には役立てる手持ちが無い。寝袋ならとバスターが持ち掛けたが、要らないと言う。
「そっちのでかい兄ちゃんと交換でも良いぞ」
「こいつ役に立たないよ」
 今度はあたしが首を振った。

 ぎゃあ! 急に悲鳴が上がった。男がびくりと身を竦め、さっきの奴らだと言った。あたしは咄嗟に肩掛けザックをバスターに投げつけ、
「あんたが持ってな! あたしが行く!」
 駆け出す。汗が目に入って痛い。擦るのがもどかしくて瞬きで追い出す。
 居た! 子供だ。走る足がよたついている。後ろにはゾンビが二体。――いける!

「坊や伏せなッ!!」

 叫んだのと同時に子供が地に伏せた。あたしの言葉に従ったのではなく、足が縺れて転んだようだがどちらでも良い。あたしはもうその時には跳んでいた。
 狙いは見事に命中、ゾンビ共の側頭部を蹴り抜いた。勢いのまま地面を転がったあたしをバスターが助け起こす。
「大丈夫か? シェーラ」
「平気さ。それより、お腹空いたね」

体力100→95/食糧100→97
アイテム:治療薬、寝袋

今日のS:【戦闘】ゾンビに追いつかれそうになっている子供を発見! 助けるなら5のダメージ。助けなくても君を責める者はいないだろう・・・君の良心の他には。いずれにせよ食糧:-2 http://shindanmaker.com/235938

今日のB:【探索】ゾンビ撃退の戦力を欲しがっている生存者に遭遇。何か武器(【戦闘】ダメージを軽減するアイテム)または同行者を譲るなら食糧9をくれる。いずれにせよ食糧:-1 http://shindanmaker.com/235938

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ゾンサバ #1

 見目、まだ綺麗な研究所を見つけた。研究所なら薬があるかも知れない。そう思って表へ回る。ドアは無い。無いと言うより破壊されていた。硝子を踏まないようにあたしはエントランスを通り過ぎる。足を怪我するからではない。ブーツの底は厚く頑丈だ。それよりも、中に居るかも知れないゾンビ達を警戒してのことだ。
 研究所内は閑散としていて音一つしない。床に撒き散らされた小さな硝子片を踏む、あたしの足音以外は。廊下の両脇に並ぶドアも大半壊されているから、見通しが良くて助かる。
 一番奥の部屋はロックが掛かっていた。暗証番号を入力する手間を省き、コンソールを蹴り壊す。思った通り警報は切られているらしく、無音のままドアが開いた。
 中は綺麗で壊された物も少ない。どうやらここはゾンビに襲われずに済んだらしい。
 けれど、壁に咲いた真っ赤な花の下で研究員らしい男が一人死んでいた。傍らには拳銃が転がっている。
「・・・あんた、馬鹿ね」
 閉じこもっている最中に絶望したんだろう。一人だけここに逃げ込んだのだろうか。たった、一人で。
(周りを全部見殺しにして?)
 あたしは拳銃を蹴り飛ばし、男に一瞥をくれてから棚を漁ることにした。・・・思った通り、治療薬が一つ。いつか役に立つはずだ。
「立たないに超したことないけどね」

 ――日暮れ前。壊れかけた彫像の陰で「あいつ」を待つ。あいつはとろいからちゃんと戻って来れるかも分からない。けれどあたしは律儀に待ってしまう。
「シェーラ」
 低い声が呼んだ。
「遅いよバスター。もう帰るとこだった」
「すまない」
 待ち人だった男、バスターは体格に見合わない弱々しい顔で笑った。筋骨隆々の癖に、あたしよりずっと大きな癖に、こいつは弱い。戦う意志を持っていないからだ。
 その顔が、あたしはあまり好きではない。だから目を逸らし、バスターの抱えている「戦利品」を顎で指した。
「何それ」
「寝袋だ。最近のは入ったまま歩けるらしい」
「じゃ、あんた着たまま歩きなよ」
 小さくバスターが笑った。笑うと目元がくしゃっとして子供みたいになる。その笑顔は、少し気に入っている。
「ほら行くよ。暗くなる前に撤収」
「分かった」

 夕陽の中に影が二つ。女の影には左腕が無く、男の影には右腕が無かった。


体力100/食糧100
アイテム:治療薬、寝袋

今日のシェーラ:【探索】研究員らしき死体を発見。どうやら自ら命を絶ったらしい・・・治療薬(ゾンビ化しつつある者を元に戻す。使い捨て)を得た! 食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938

今日のバスター:【探索】ホームセンターを捜索。寝袋(【休息】が出た場合、本来の効果とは別にHPを1点回復する)を得た! 最近は歩ける寝袋というのもあるらしい。食糧:-2
http://shindanmaker.com/235938

※この時、食糧の-値を反映させるの忘れてました。

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